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 こうして、MLBはリーグで稼いだメディア収入を適切に球団に分配する一方、球場新設へのインセンティブを付与することで球団経営の礎となるボールパークへの適切な投資を呼び込み、球界全体の収益性を高めることに成功したのです。こうしたリーグ全体最適の視点からの共存共栄の制度があって初めて、エクスパンションが可能になるわけです。

日本のプロ野球に欠けている共栄の思想

 ここまで読んで頂いてお分かりの様に、MLBをはじめとする米国メジャープロスポーツのビジネスは完全自由競争ではなく、むしろリソースを適切に管理・再配分することで戦力均衡を実現させる護送船団型モデルです。これは、昇降格制度を持たず、自リーグの外に世界を想定しない「閉鎖型モデル」の特徴ですが、要は会員制の互助組織なのです(閉鎖型・開放型モデルの違いについては、FIFAコンサルタントの杉原海太さんが非常に分かりやすいコラムを書かれているので、そちらをご覧下さい)。

 エクスパンション(互助会員を増やすこと)とは、閉鎖型モデルを採用するスポーツ特有の考え方で、開放型スポーツには見られません。なぜなら、開放型の場合は階層の一番下のリーグに参入して勝ち上がってこないといけないからです。サッカー日本代表の岡田元監督が設立したFC今治も地域リーグからの参入でした。

 MLBで最も新しい1998年のエクスパンションでは、アリゾナ・ダイヤモンドバックスとタンパベイ・デビルレイズの2球団が新設されましたが、新規参入にあたり両球団はそれぞれ1億3000万ドルの加盟料を支払っています。なぜここまで加盟料が高額なのかというと、参入すれば収益分配制度を通じて多額の分配金が支払われる上(新規参入球団にとって、当面これが事実上の生命維持装置になる)、既存球団から選手を配分するエクスパンションドラフトなどの支援策を受けることができるためです。つまり、加盟料は互助制度への対価(入会費)なのです。

 翻って、NPBにはこうした戦力均衡のための制度が未整備です。2004年に起こった球界再編の際、NPBは新球団に60億円の加盟料を要求しましたが、これに公正取引委員会から独禁法違反の疑いが指摘され、結果的に選手会との交渉で加盟料が撤廃され、現行の「預り保証金制度」(保証金として25億円を預け入れ、10年後に返還)ができた経緯があります。これは、戦力均衡の視点から新球団への支援策に乏しいNPBではMLBのような高額な加盟料を支払う合理的な理由がなかったためです。

 ZOZOの球界参入騒動で再び脚光を浴びたプロ野球16球団構想ですが、もし本気で球団数を増やすのであれば、収益分配制度やサラリーキャップなど、リーグ全体の共存共栄を視野に入れた制度の導入を検討するいい機会でしょう。第一巡をくじで決める現行のドラフト制度も、厳密には戦力均衡に寄与しているとは言えず、改善の余地があると考えられます。

 スモールマーケットに本拠地を置く球団が増えれば、収益力の格差に伴う戦力の不均衡は確実に広がります。エクスパンション(球団増設)と言う米国プロスポーツを本家とする「閉鎖型モデル」の手法を真似するなら、その本質である戦力均衡の思想も併せて導入しないと、いたずらに不採算球団を増やし、リーグ経営を不安定化させるだけです。