スポーツをすることだけがスポーツ組織の仕事ではない

 しかし、プロスポーツ団体であるNBAが数学ゲームコンテストを実施することに何となく違和感を覚えた方もいたかもしれません。NBA抜きでも数学ゲームは開発できますし、NBA以外の他の誰かがトーナメントを主催してもいいわけですから。

 実は、NBAは自身のことを単なるスポーツ興行主とは思っていません。社会課題解決を積極的に推進していくプラットフォーマーとしての役割を、競合エンタメとの差別化要因として戦略的に位置づけています。日本では、「スポーツ組織は試合をすることが仕事」というイメージがまだ一般的だと思いますが、NBAなどのメジャースポーツ組織は「社会課題を解決することも仕事」と考えているのです。

 私が話を聞きに行った際、NBA幹部は自身の強みを「アンプとボンドだ」と言っていました。アンプとは、スポーツの注目度の高さを利用したPR機能のことです。NBA抜きでも同様の取り組みを実施することはできるでしょうが、スポーツ組織が入ることにより、メディアから注目され、効果的なPRを行うことが可能です。

 また、ボンドとは様々な組織をつなぐ力です。スポーツ組織は、そもそも多様なステークホルダーを抱えています。フランチャイズを置く地方自治体や協賛契約を結ぶ地元企業、放映権契約を結ぶテレビ局、取材を受けるメディア、そして熱狂的なファンなどです。

 こうしたスポーツのPR機能やつなぐ力を活用すれば、NPOなどソーシャルセクターの努力だけでは限界があった活動を拡大させることができるのです。ソーシャルセクターの人間は社会課題解決のスペシャリストである一方、ビジネスとしてお金を引っ張ってくる部分に弱みを抱えているケースが少なくありません。その結果、組織の活動が補助金頼みになり、せっかくの意義ある活動が規模を伴わないという悩みを抱えています。

 ここにスポーツ組織が関与し、アンプとボンドの機能を発揮して適切なスポンサーを引っ張り、PR活動を行えば、ソーシャルセクターの限界を超えることができるのです。日本では、全例文でうんこに関するエピソードを使った「うんこ漢字ドリル」が爆発的にヒットしているようですが、スポーツもうんこと同じなのです。

 「NBA数学バスケ」のケースでは、身近で憧れの選手が活躍するNBAが関与することで中学生の参加意欲が刺激され、そこにNPOの知見と玩具メーカーが協力することにより、活動が一定の規模を伴って持続的に行われる仕組みができるのです。ハズブロはNBAのライセンシーですから、この取り組みによりNBAはロイヤリティー収入を手にし、ハズブロは新たなゲームの売り上げを期待でき、ラーン・フレッシュは子供の学習意欲を刺激して貧困問題を解決する手助けを広範囲で展開できるのです。

 このように、ソーシャルスポンサーシップでは、「スポーツ」(Sports)、「協賛企業」(Sponsors)、「ソーシャルセクター」(Social Sector)の“SSS(トリプルS)パートナーシップ”の構築が非常に重要になってきます。スポーツが抜ければ活動は拡大しづらくなりますし、スポンサーがいなければ活動の継続性が失われるかもしれません。

 ただし、このSSSパートナーシップの構築は、言うほど簡単なことではありません。なぜなら、スポーツ側の人間は社会課題に関する理解が十分でない一方、ソーシャルセクター側の人間もスポーツの使い方が分からないためです。この両者の溝を埋める人材がいなければ、適切な社会課題の選定や協賛企業のマッチング、スポーツの関与の仕方をデザインすることができません。今後は、SSS三者の事情を理解できるソーシャルスポンサーシップ・プロデューサーとでも言うべき人材の育成が急務になるでしょう。

 日本は今後、先進国の中でも前例のない少子高齢化社会に突入していきます。いわば社会課題先進国になるわけですから、社会課題解決を事業機会と捉えることができれば、スポーツ・企業・ソーシャルセクター「三方よし」の全く新しいビジネスモデルを確立できるかもしれません。