チケット販売の「入口」と「出口」を押さえる

 スポーツ組織(ライツホルダー)は、再販サイトとの協働を余儀なくされる中で問題の本質を学習していきます。再販市場が急速に拡大し、多くの顧客が再販市場に流れた本質的な問題点の1つは自分たちの価格設定の硬直性や使いづらいチケット購入サイトのデザインにあったことを理解したのです。

 ライツホルダーによる価格設定が消費者の実際のニーズから乖離すればするほど、再販市場は大きくなります。フェラーリを100万円で売るような真似をすれば、誰でもそれを転売したくなるのと同じことです。

 時代遅れになった自らのプライシング手法を見直す必要に迫られた米国スポーツ組織がまず着手したのは、ダイナミック・プライシングなどの柔軟な価格政策の導入です。ダイナミック・プライシングとは、需給バランスに影響を与える様々な要素を加味した値付けをリアルタイムに行うことで、その時の「時価」でチケットを販売する手法のことです(ダイナミック・プライシングについては、以前「米スポーツ界に革命を起こしたダイナミック・プライシング」にて詳述したのでここでは触れません。興味がある方はリンク先をご参照ください)。

 価格政策に柔軟性を持たせることで、需要と供給の乖離を減らす努力をしたのです。ただ、スポーツビジネスで難しいのは、価格政策の成否に関わらず、シーズンチケット保有者により一定の転売市場が形成されてしまう点や、チームの勝敗や選手の活躍をコントロールすることができないため、期せずして大きな需要が生まれてしまうケース(予想に反して優勝争いに残ってしまう、大記録がかかった試合が来るなど)が避けられない点です。

 こうした予期せぬ需要を逃さずマネタイズするために、スポーツ組織が現在着手しているのが、再販市場の「内製化」です。ダイナミック・プライシングの導入と、再販市場の内製化によって、顧客に対するチケット販売の「入口」と「出口」を押さえてしまうという考えです。

再販業者同士のバトルも勃発

 実は、チケット再販業者はマーケット側につくか、ライツホルダー側につくのかで2種類のタイプに分けることができます。前者は、チケット転売価格を市場の需給バランスに委ねてしまう(自らは価格設定に介在せず、売り手と買い手が自由に設定する)タイプで、その代表的な事業者がスタブ・ハブです。

 一方、後者は、チケット販売価格に一定の制約を設け、ライツホルダーの価格政策を保護するタイプです。例えば、再販価格にこれ以上安くできない「最低価格」(これを「プライス・フロア」などと言う)を設けるなどにより、チケットの値崩れを防ぐのです。こちらのタイプの代表的な事業者はチケットマスター社です(同社は、ライツホルダーの一次市場におけるチケット販売システムを構築している会社であり、彼らが再販市場でもライツホルダー側につくのは、自分のビジネスを守るためでもある)。

 前述のように、MLBはマーケット側につくスタブ・ハブ社と公式再販契約を結んでいます。これと対照的に、MLB以外のメジャースポーツリーグは、チケットマスター社と公式再販契約を結んでいます。こうした背景もあり、再販市場の内製化はリーグレベルではチケットマスター社を中心に行われています。

 同社は、パートナーシップを結ぶNBA、NFL、NHLに対して2013年から一次市場と再販市場を同一画面で表示するチケット販売サービス「TM+」を試験導入しています。顧客から見れば、チケット購入先がライツホルダーの提供する一次市場なのか、再販市場なのかはどうでも良い話ですから、両市場を統合してしまえというシンプルな考えです。

 MLBはマーケット側につくスタブ・ハブ社と2017年まで契約が残っているため、今リーグレベルでは再販市場の内製化に向けた表立った動きは見せていませんが、球団レベルでは今年からボストン・レッドソックスが自前のチケット再販サイト「Red Sox Replay」をローンチするなど、新たな動きが出てきています。

 このように、再販市場の中にあっても、市場側につく企業とライツホルダー側につく企業の綱引きがあります。「静観」から「協働」フェーズの途中までは前者が隆盛を極めていましたが、ライツホルダー側の“逆襲”により、後者の再販業者が形勢を巻き返しつつあります。

 米国では、マーケット側につくスタブ・ハブのような再販業者が市場形成を牽引してきた経緯があり、再販市場では経済合理性によりチケット価格が決定されることが一般的になっています。これが、文字通り“世紀の一戦”になった今年のワールドシリーズのチケット再販価格が車を買える位の価格にまで高騰した理由です。一方、日本でのチケット再販の状況はどうなっているのでしょうか? 次回のコラムでは、米国におけるチケット再販市場の成長プロセスと比較しながら、日本のチケット再販市場の現状や問題点などについて考えてみようと思います。