硬直的なプライシングが再販の機会を生む

 再販サイトが登場した初期(2000年ごろ)、スポーツリーグは敵か味方か分からない再販業者に対するスタンスを明らかにせず、彼らの事業を「静観」していました。実質的には、リーグ機構はリーグ全体での再販市場へのスタンスを定めず、対応は各球団に任せる形にしていました。

 この「静観フェーズ」は5~6年ほど続きました。この間、再販業者は利便性の高いサイトを構築するなどして一気にチケットの取り扱い量を増やしていきました。

 再販サイトの代名詞にもなっているスタブ・ハブがスタンフォード大学ビジネススクール出身の投資銀行家によって起業されたことが象徴的ですが、旧態依然としていたチケット販売ビジネスの需給バランスのギャップに目を付けた多くの起業家がこのフェーズにチケット再販関連のベンチャーを起こして行ったのです。

 一般的に、スポーツ観戦チケットの値付けはシーズン開始前に行われるのが普通です。例えば、野球なら4月から10月頃まで開催されるシーズンに備えて、開幕前にホームゲーム全試合(MLBなら81試合)の値段を決めます。多くの場合、フィールドに近い席ほど値段が高くなり、この値付けが全試合一律に適用されることになります。

 しかし、半年以上も前に試合の「本当の価値」を正確に予測するのは簡単ではありません。「自チームの成績」や「対戦相手の成績」は、試合の価値を決める代表的な要素の1つです。消化試合なのか、優勝を決める試合なのかで、その試合の持つ重みは大きく異なってしまいます。でも、これはシーズンが深まるまで誰にも予想できません。また、野球なら、「誰が先発するのか」(エースが投げるのかどうか)、「天気はどうなのか」(暖かいのか、寒いのか)、「何か大きな記録がかかっているのか」(通算200勝や2000本安打など)などによって、チケット購入者が実際に感じる価値は変動します。

 こうした理由により、スポーツ観戦のチケットは、額面価格が本当の価値を反映しないまま売られていたのです。こうした価格設定の硬直性により生まれた需給ギャップに目を付けた営利目的のダフ屋やブローカーに加え、行けなくなったチケットの処分を目的にしたシーズンチケット保有者などが便利な再販サイトを利用するようになりました。

圧倒的な力量の差から協働を余儀なくされたスポーツ組織

 多くの消費者が当たり前のように再販サイトを活用するようになったため、スポーツ組織は価格政策上いくつかの問題点を抱えるようになりました。

 代表的な問題点の1つは、供給過多の試合のチケットが額面割れの価格で販売されてしまう点です。こうなると、スポーツ組織が提供する一次市場(公式サイトなど)などでチケットが売れなくなるばかりか、最も割引率の高いシーズンチケットを買うインセンティブも低くなってしまいます。シーズン席保有者は、スポーツ組織にとって最重要顧客であり、この顧客層を失うことは大問題です。

 もう1つの問題点は、需要過多の試合の収益が再販サイトに奪われてしまうことです。つまり、5000円で売っていたチケットが1万円で転売されるような場合(この差額の5000円は適正な値付けをしていればライツホルダーに入るはずの収益ですが)、その一部が再販サイトに手数料収入として移転されてしまう点です。

 こうした理由により、スポーツ組織も彼らの存在を無視できなくなり、再販サイトと公式パートナー契約を結ぶ形での「協働」を余儀なくされます。2007年にNBAがチケットマスター(Ticketmaster)社と、MLBがスタブ・ハブ社と公式再販契約を結んだのを皮切りに、NFLやNHLなど他のリーグもこの動きを追随しました。

 公式パートナー契約を結ぶと、その再販業者は「リーグの公式再販サイト」としてスポーツ組織から顧客誘導を受けることになります。その見返りに、売上の一定比率をスポーツ側に分配し、顧客情報を共有するのです。

 これは見方によっては「敵に塩を送る行為」にも見えてしまいます。しかし、スポーツ側から見れば、「手をこまねいて負け戦を見ているよりは、きちんとした再販システムをシーズンチケット保有者に提供することで顧客満足度に配慮し、収益分配と顧客情報を手にした方がまし」というのが本音だったと私は見ています。言い方を変えれば、それだけスポーツ組織と再販サイトの力の差が歴然としていたということです。