ちなみに、2020年の東京五輪の開催費用の見積もり額は、2013年1月の立候補ファイル時点では7340億円でしたが、その後、東京都の都政改革本部の調査チームにより「逐次的に開催費用が改定され、とめどなく費用が増える懸念がある」との指摘を受けるほど雪だるま式に膨らんでいきます。最大で3兆円まで膨らみましたが、その後IOCからの削減要求を受けて2016年12月時点で組織委員会が1.6~1.8兆円の試算を公表しています。
五輪は例外なく開催費用が高額化し見積もり超過するというリサーチ結果から、オックスフォード大学の調査チームも「五輪の開催を予定している都市や国は、世の中で最も高額で財務リスクの高い大規模プロジェクトを行おうとしているという認識を持つべき」と警鐘を鳴らしています。このように五輪開催のリスクが可視化されてきたこともあり、近年五輪開催に立候補する都市の数は減少傾向にあります。
立候補都市の相次ぐ撤退から、2024年の夏季大会での最終立候補都市として残ったパリとロサンゼルスがそれぞれ24年と28年の開催権を無競争で分配される異例の事態になったのは記憶に新しいところです。巨額の開催費用を負担するのは経済合理的でないと考える国や都市が増えていることから、欧州・米州・アジア・アフリカなど大陸別に競技を分けて五輪を開催する「分散開催」や、常に同じ場所(例えば、五輪発祥の地ギリシャ)で開催する「常設開催」などのアイデアも出てきています。もしかすると、2028年のロス五輪が一国単独開催の最後の五輪になるかもしれません。
IOCや東京五輪のレガシー創出に向けた指針
IOCが「レガシー」という言葉を使うようになったのは、2002年からのことです。この時初めて、五輪憲章に「オリンピックの開催都市ならびに開催国にポジティブなレガシーを残すことを推進する」(To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and host countries)との文言が追加されました(第1章「オリンピック・ムーブメントとその活動」第2項「IOC の使命と役割」)。2013年には「オリンピック・レガシー冊子」(Olympic Legacy Booklet)を発表し、その中で5つの指針が示されています。
レガシーの種類 | レガシーの例 |
スポーツレガシー (Sporting Legacy) | ・競技施設(Sporting venues) ・スポーツ振興(A boost to sport) |
社会レガシー (Social Legacies) | ・世界的な注目(A place in the world) ・卓越性、友好と敬意(Excellence, Friendship and respect) ・包括と協力(Inclusion and Cooperation) |
環境レガシー (Environmental Legacies) | ・都市の再開発(Urban revitalization) ・新エネルギーの活用(New energy sources) |
都市レガシー (Urban Legacies) | ・新たな景観(A new look) ・交通インフラ(On the move) |
経済レガシー(Economic Legacies) | ・経済成長(Increased Economic Activity) |
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