今や、前述したアラバマ大のセイバン氏のようなフットボール部の一流ヘッドコーチの年俸は700万ドル(約7億3500万円)を超え、全米50州のうち40州で大学スポーツ(フットボール部か男子バスケ部)のヘッドコーチが公務員としての最高年俸取得者となっています。大学体育局のトップであるAD(アスレチック・ディレクター)の報酬も数十万ドル(数千万円)になることは珍しくなく、大学スポーツが大きく商業化していく中で、その富の分配という点では学生だけが取り残されてしまった形です。

大学スポーツ界を震撼させた違法判決

 こうした歪んだ状況の中、大学スポーツの根本的なビジネスモデルの変革を迫る動きが進行しています。「アマチュア規定」の違法性が裁判所から指摘されているのです。

 これは、1990年代にUCLAでバスケットボール選手として活躍したエド・オバンノン氏が原告となり、NCAAを相手取って起こした訴訟に端を発したものです。同氏は、テレビ中継やDVD、テレビゲームなどで卒業後の学生選手の肖像権が無断で使われているとし、その不正利用と、報酬の受け取りを禁じたアマチュア規定の反トラスト法(日本の独占禁止法に当たる)違反を主張して損害賠償を求めて提訴しました(通称、「オバンノン訴訟」)。

 2014年8月に出された第一審判決では、アマチュア規定は不合理な取引制限であるとして原告の主張通り反トラスト法違反が認められ、学生一人当たり5000ドルを下限とする金銭的報酬の支払いを認めました。NCAAは、ビジネスモデルが崩壊するとして控訴し、徹底抗戦の構えを見せています。

 2015年9月に出された控訴審判決は、アマチュア規定が反トラスト法違反とした地裁の判断を支持しました(ただし、5000ドルを下限とする判断は否定)。現在、原告被告双方が上告し、争いの舞台を最高裁に変えて係争中です。

 ただし、第一審・控訴審ともにアマチュア規定が法律違反である点は明確に指摘しており、最高裁で逆転判決が出ない限り、大学スポーツは変質を余儀なくされるでしょう。

「学生選手は学生ではない」

 このオバンノン訴訟と並んで、NCAAのビジネスモデルの変質を強いる流れを作った動きがあります。学生選手による労働組合結成に向けた取り組みです。

 これは以前「アメリカ大学スポーツの終わりの始まりか?(上)」でも解説しましたが、2014年1月、名門ノースウエスタン大学の現役フットボール部員たちが、学生アスリートによる労働組合設立に向けて動き出しました。2月には米国で主要な労働関係法を執行する連邦政府の独立行政機関「全米労働関係委員会」(NLRB)で公聴会が開催されました。

 証人として出廷したアメフト部員が「学生選手にとってスポーツは実質的に奨学金を対価とした仕事(Job)に当たり、大学も学生に対して学業よりスポーツに高い優先順位をつけるように指導している」として、組合設立の妥当性を述べました。これに対し、組合設立に反対する大学側は、フットボール部ヘッドコーチを証人として出廷させ、「学業が最優先事項であり、コーチの仕事は学生にスポーツを通じて人生に備えることを教えることだ」と反論しました。

 専門家の間では、過去の訴訟で多くの裁判所が学生アスリートの労働者性を認めていなかったため、学生選手組合設立の見込みはほとんどないとする見方が主流でした。しかし、NLRBによる判断は、大学スポーツ関係者を驚愕させるものとなりました。

 2014年3月にNLRBが下した判断は、「奨学金を得ている学生アスリートは、全米労働関係法の定める“労働者”と認められる」とするものでした。NLRBは、学生アスリートは「プレー」という労働力と引き換えに「奨学金」という賃金を得ているとしてその労務対償性を認め、練習や試合を指揮監督下の労働として認めたのです。

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