このように、寄付金が収入の大きな比率を占めるのは米国における大学スポーツの大きな特徴の1つで、トップスクールになれば毎年3000万ドル前後の寄付金がコンスタントに集まります。米国では多くの卒業生が強い同窓意識を持ち、母校の活躍のために寄付を行うことが当たり前になっています。

 寄付金を除けば、チケット販売と権利ビジネス(スポンサーシップやライセンス収入)が大学の体育局にとっての主な収益源となります。

 また、同校の体育局は大学(学生からの授業料収入)からの援助を受けておらず、体育局が独立採算で運用されている点も特筆すべきでしょう。日米の大学スポーツを比較した場合、この点が最も大きな違いです。日本の体育会の多くは、大学からの支援と部員からの部費でかろうじて運営しているレベルに過ぎず、米国のように多額の事業収入を持つ大学はほとんどありません。

 体育局で働くスタッフは、チケットを販売し、協賛企業を探すスポーツビジネスのプロです。アマチュアスポーツと呼ばれるのは、学生である選手が報酬を受け取れないためで、NCAAでは学生以外は体育局のスタッフもコーチもその職務を専門とするプロフェッショナルとして採用されています。フットボール部の一流ヘッドコーチにもなれば、その年俸は700万ドル(約7億3500万円)を超えます。

カンファレンスレベルのビジネス

 次いで、カンファレンスのレベルのビジネスを見てみましょう。以下は、Forbes誌が調べた2014-15年シーズンのカンファレンス収入(NCAAや大学の収入は含まない)のトップ5です。

●カンファレンスの収入ランキング(2014-15年シーズン)(単位:百万ドル)
●カンファレンスの収入ランキング(2014-15年シーズン)(単位:百万ドル)
(出所:Forbes)
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 カンファレンス収入でトップに輝くのは、先のテキサスA&Mなど14大学が所属するSEC(Southeastern Conference)です。カンファレンスの収入で特徴的なのは、権利ビジネスが大半を占める点です。特に収入の大部分を占めるのはテレビ放映権収入です。

 スポーツビジネスの興行を行う場合、その要諦となるのはチケット販売です。チケットが売れなければ(お客が入らなければ)、その周辺の収益源であるスポンサーシップ収入やテレビ放映権収入なども望めないからです。チケット収入は他の収益源に「お金」という血液を循環させる心臓のような役割を果たしているのですが、これを担当するのが大学の役割です。大学はNCAAビジネスの心臓なのです。

 カンファレンスが担当するのは、大学の集客力をテコにした権利ビジネスです。SECの収入内訳は以下の通りですが、テレビ放映権収入が全体の7割以上を占めています。

●SECの収入内訳(2014-15年シーズン)(単位:百万ドル)
●SECの収入内訳(2014-15年シーズン)(単位:百万ドル)
(出所:USA Today)
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 以前「動画配信サービスがスポーツメディアにもたらす地殻変動(上)」でも解説しましたが、米国スポーツ界では2012年を境にテレビ放映権が急騰しています。この流れをつかみ、更に収益性を高めるべく近年はスポーツ組織(球団やリーグ機構)が自らテレビ局を設立して番組を制作し、広告ビジネスを展開しています。そして、このトレンドは大学スポーツにも押し寄せています。

 SECも2014年にスポーツ専門局ESPNと共にSECの競技スポーツを中心に放映する「SEC Network」を設立しました。自身のテレビ局を設立すれば、ケーブル事業者からの加盟料収入やテレビCMからの広告収入が期待できるため、単にテレビ局にテレビ放映権を売るよりも大きな収益を見込むことができるためです。

 また、競技普及のために意図的にマイナースポーツの中継を行ったり、学生スポーツには相応しくないお酒やギャンブルのテレビCMを控えるなどのコントロールができる点も自らテレビ局を設立する利点です。

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