万能薬にはならない「多機能複合型スポーツ施設」

 テクノロジーと並んで話題先行で誤解を生みやすく本末転倒になりがちなものに、多機能複合型スポーツ施設の建設があります。多機能複合型スポーツ施設とは、スポーツ施設の周辺に商業施設やホテル、レストラン、住宅などを併設し、都市機能を集約することで集客力を高めるというコンセプトを特徴としており、政府も官民連携でこのモデルを採用してスポーツ施設を核とした街づくりを進めていくとしています。

 多機能複合型スポーツ施設というコンセプト自体を否定するつもりはありませんが、繰り返しになりますが、スポーツの本質はコンテンツそのものが持つ魅力であり、「多機能複合型」というコンセプトがコンテンツ以上の存在にはならないのです。つまり、言い方を変えれば、コンテンツ力のないスポーツ施設の周辺にいくら他の機能を集約しても、集客力はアップせず、収益事業として成立しないのです。

 私は日本のプロスポーツ球団の施設改修などのお手伝いをしていることもあり、先行事例調査として多くの米メジャースポーツ施設を訪問しています。米国4大メジャースポーツなら、ほぼ全ての施設に足を運んでいますが、米国では「多機能複合型」という考え方はまだ主流ではありません。それは、このコンセプトが機能するだけの前提条件を満たすチームが限られるからです。

 スポーツの持つコンテンツ力自体が何より重要だと言いましたが、米国で年間総観客動員数から見て最大のコンテンツ力を持つのは、年間162試合を行うメジャーリーグ(MLB)です。そのMLBを例に挙げれば、全30球団の中で、街中に施設があるため結果的にその他の機能が近くにあった「結果的多機能複合型」のケースはいくつかあるものの、球団自身が戦略的に「多機能複合型」プロジェクトを進めているのは、私の知り限りセントルイス・カージナルス、テキサス・レンジャーズ、アトランタ・ブレーブスくらいしか思い浮かびません。

 カージナルスは、MLBの創設初期の16チーム時代(1901~1952年)に国内で最も南西に位置するチームだった名残りで、今でも多くのファンが遠方から試合観戦に駆けつけるというファン基盤上の特性を持っています。観客の90%以上は地元セントルイス市外からのファンで、ミズーリ州外からのファンも40%にのぼります。レンジャーズの場合も100マイル(約160km)以上離れた郊外から訪れるファンが観戦者の32%もおり、こうした遠方からのファンの顧客体験を損なうことがないように、多機能複合型スタジアムの建設計画を現在進めているところです。

 こうした遠方から訪れたファンは試合観戦を終えてもすぐには帰らず、宿泊前提で観光やレジャー、買い物などを楽しむのが特徴です。「多機能複合型」スタジアムが機能する前提としては、こうしたファン基盤やファンの行動特性の裏付けが不可欠です。

 こうした点を正しく理解せず、市場調査を十分に行わないまま「多機能複合型」というコンセプトに依存してしまうと、かつて似たようなコンセプトによって日本各地で推進された「コンパクトシティ政策」の迷走のように、必ずしも思惑通りに機能せず、場合によっては絵に描いた餅で終わってしまうでしょう。