利権化して方向性を見失いがちな「スポーツ×テクノロジー」

 時まさにICT(情報通信技術)全盛ということもあり、「スポーツ×テクノロジー」という切り口から多くの可能性が指摘され、輝かしいスポーツ産業の未来像が描かれています。また、そのポテンシャルを信じ、多くの事業者がスポーツ市場への参入を検討しているようです。

 私も新たなテクノロジーの持つ力に大きな可能性を感じている一人ですが、技術はスポーツ組織にとっても民間企業にとっても利権になりやすく、本質が見失われがちな領域でもあり注意が必要です。日本の一足先を行く米国スポーツ界でも、鳴り物入りで登場してきた“革新的サービス”が数年後には姿を消していたというケースが少なくありません。

 スポーツの本質はコンテンツそのものが持つ魅力であり、テクノロジーはそのサポート役に過ぎない点を見失ってはいけません。“魔法の杖”のように顧客を魅了するテクノロジーなど存在しません。技術はコンテンツ以上の存在にはならないのです。新たなテクノロジーを導入する際は、その技術が本当にコンテンツの魅力を増すものなのかどうかを厳しく自問自答する必要があるでしょう。

 分かりやすい例を挙げれば、スポーツ競技場へのWi-Fiの敷設があります。日本では、Wi-Fiの導入がさも革新的なサービス提供のように報じられることもあるようですが、Wi-Fiは単なる通信インフラであり、言ってみればトイレを設置するのと同じようなものです。どんな高性能なトイレを導入しても、それだけで来場者を大幅に増やすことはできません。

 また、米国では施設のWi-Fiサービスを活用して、専用アプリを用いたマルチアングルからの映像提供サービスが流行った時期がありました。しかし、これも技術先行で考えると失敗する典型例です。そもそも、試合観戦中の映像提供はインターバルが少ない競技には不向きです。また、マルチアングル映像がファンに付加価値を提供できなければ意味がないわけですが、QBのステップワークやレシーバーのキャッチ、ラインのブロックなど一目で全てを把握するのが難しいようなアメフトの得点シーンなど、一部の競技でしかニーズがないのが現状です。

 ファン体験の向上を目的にした映像提供という意味では、施設内のモニターの設置が基本中の基本です。米国の進んだスポーツ施設では観客40~50人に1台の割合でモニターが施設内のあらゆる場所に設置され、試合の模様をオンエアしています(4万人収容の施設なら800~1000台のモニターが場内に設置されている)。これだけモニターがくまなく場内に設置されていると、ファンは安心してトイレや買い物のために席を立つことができるようになり(得点シーンを見逃す恐れがない)、その結果ファンの観戦満足度は向上し、物販の売上も増大します。残念ながら、このレベルでモニターを設置しているスポーツ施設は日本にはまだほとんどありません。

 民間企業がスポーツイベントや施設に協賛する場合、その事業スコープを規定した「カテゴリー」が割り当てられることになります(「金融カテゴリー」「航空カテゴリー」「自動車カテゴリー」など)。協賛効果を高めるため、基本的に競合排除を前提にした「1カテゴリー1社」が原則になるのですが、テクノロジーカテゴリーの場合は業態が似通っている企業が多く、こうした多くの企業マネーを取り込むために「サブカテゴリー」を切るのが一般的です(「映像サービス」「通信サービス」「ネットワーク製品」など)。

 各サブカテゴリーの企業は、競合の後塵を拝することなく独自のサービスを提供することで自社の技術力を誇示したいと考えるため、結果的にファンのニーズとは必ずしも合致しないサービスが様々なサブカテゴリーから総花的に提供されることになります。これが、テクノロジーが利権化する怖さです。

 ちなみに、既にいわゆる「スマート・スタジアム」の洗礼を受けている米国スポーツファンがテクノロジーに対してどのような見方をしているのかを端的に表した最近のアンケートがあります。これは、スポーツビジネスジャーナル誌(2017年3月20日号)が特集した「スポーツ施設におけるファン体験」の中で紹介されているものです。

Q:スポーツ施設に期待しているテクノロジーは?
A:ない(ただ試合が観戦できれば良い)49%
大型ハイビジョンスクリーン37%
Wi-Fi21%
座席からの飲食注文16%
座席のアップグレード13%
隣の席にどんなファンが座るかを知る技術8%
ファンタジースポーツ関連情報の提供6%
ビジョンでソーシャルメディアの投稿が見られる6%

 ご覧のように、米国スポーツファンの約半数はテクノロジーが試合観戦の邪魔をしないで欲しいと言っているのです。スポーツ産業にテクノロジーを応用する動き自体に冷や水を浴びせるつもりは全くありませんが、ファンから求められない技術は結果として早晩廃れていくため、本質をつかんだサービス開発が不可欠です。