前述の通り、ロンドン五輪でも東京五輪同様に公式スポンサーはT1~T3までの3層構造で分類されていますが、ロンドンではT1とT2に各7社の合計14社しか置いていません。これに対し、東京五輪では現時点でT1とT2で既に34社が決まっています。

 協賛企業は多ければいいという訳ではありません。むしろ、米国では「数を減らして価値を高める」(Less is More)というアプローチが今では有効だと言われています。なぜなら、スポンサー数が増えれば、当然こうした企業とともに協賛計画を練り上げて行く代理店・組織委員会の負担が増えるからです。

 負担が増えれば、物理的に協賛企業にアサインできるスタッフの数も作業時間も減ることになり、アクティベーション計画策定において十分な検討を行う余裕がなくなって行くというジレンマに陥ります。結果、協賛企業が十分な成果を生み出すことが難しくなるのです。

 また、同一カテゴリ内に同業他社が並列して公式スポンサーになるというのも前代未聞です。欧米では、分かりやすく言えば競合他社に勝つために協賛を行うため、そのカテゴリ独占性が非常に重要になってきます。競合他社が手に入れることができない有効なツールを巨額の資金をはたいて手に入れるという感覚が強いですから、米国ではコカ・コーラとペプシが同じイベントで並列して協賛になることはありえません。

 「通信・技術」カテゴリでは、似たような業種の企業に「通信サービス」「ネットワーク製品」といったサブカテゴリを切ることで対応しています。これは厳密には同一カテゴリで並列協賛している形にはなっていませんが、こうした企業がビジネスを行う場合に、どこまで協賛企業の競合排除を厳密に適用するかも頭の痛いところでしょう。

 分かりにくいと思いますので例を挙げると(これは私が勝手に考え出した例であり、実在するものではありません)、例えば富士通がデータセンターを構築する際、外部との通信ネットワーク導入やセキュリティー対策を講じなければなりません。「ネットワーク製品」と「セキュリティサービス」カテゴリにおける公式スポンサーはそれぞれNECとセコムですが、既に富士通がこれらの企業の競合に当たる会社と長年に渡る信頼関係があり、その会社を活用したいと考えた場合、それがどこまで許されるのかという問題です。

大きな影響力はもろ刃の剣

 オリンピックの協賛金額が巨額なのは、オリンピックというイベントの影響力が大きいためです。しかし、この巨大な影響力はもろ刃の剣にもなるという点も知っておいた方が良いかもしれません。

 例えば、世界2位の化学メーカーDowは、2010年より「公式化学会社」として国際オリンピック委員会(IOC)のTOPスポンサーとなりました。しかし、同社は1984年にインド中部ボパールで多数の死者が出た有毒ガス流出事故(2万人前後が死亡したとされる)を起こしたユニオン・カーバイト社を1999年に買収しており、ロンドン五輪への協賛が決まると「協賛に支払う金があるのなら、事故の補償をすべき」と同社への批判が高まってしまいました(同社は、買収時点で事故補償は完了済みと主張し、一切の追加補償を拒否していた)。

 また、大手警備会社のG4Sは、ロンドン五輪ではT3の「オフィシャル・サプライヤー」として協賛契約を結び、大会の「公式セキュリティサービス提供者」として会場警備を担う1万400名の警備員を調達・育成・配備する業務を受託しました。しかし、大会開催2週間前になって約束した数の警備員を配置することができないことが明らかになり、組織委員会は人員不足を補うため警察や英国軍の投入を余儀なくされました。

 五輪公式スポンサーの騒動は大きく報じられ、協賛活動が同社のサービスに関する悪評を広めることに貢献するという皮肉な結果に終わってしまいました。その後、同社は警備委託料の支払いを巡り組織委員会と対立し、大会終了5カ月後にようやく和解しています。

 このように、注目度が高まる五輪への協賛活動は、広報的なリスクにもなりえるということを十分に理解しておくことも必要でしょう。批判や不評は協賛活動とは無関係な活動から生まれることも多く、五輪協賛企業としてオリンピックの価値やステークホルダーを十分に理解し、その価値観と不整合を起こす活動を事前にチェックしておく必要もあるでしょう。