日本人留学生の米スポーツ界への就職は困難に?

 最後に、これは直接的に米スポーツ界の組織経営に影響を与える話ではありませんが、日本人留学生には死活問題となり得る動きが出てきていますので、それに触れておきます。

 外国人労働者の雇用がアメリカ人の雇用環境を悪化させているという議論は以前からありました。以前「球団への就職は「夢のまた夢」」でも書いたように、オバマ政権でも雇用の保護主義政策が進められたのですが、トランプ政権は一層これを強化しており、不法移民の国外強制退去措置だけでなく、合法的な移民の雇用にもブレーキをかけようとしています。

 特に今やり玉に挙がっているのは、専門知識・技能保持者に発給される「H1-B」と呼ばれる労働ビザです。H1-Bは米国に留学した外国人学生が卒業後に米国内で働く際に取得することでも知られるビザで、私も米国の大学院卒業後、このビザを取得して米国で仕事をする機会を得ました。

 H1-B取得を取得した就業者を採用する企業には、米国人の雇用を圧迫しないため、「相場賃金」(米労働省が職業や経験、勤務地に応じて定めている賃金水準)を支払うことが求められます。良質優秀な外国人労働力を不当に安い賃金で採用できないようにして、米国人の雇用機会が失われるの防ぐのです。

 こうしたなかで1月30日、「High-Skilled Integrity and Fairness Act of 2017」という法案が下院に提出されました。この法案は、H1-Bビザの法定最低賃金を一気に年収13万ドルに高めるなど、外国人の雇用に大きなハードルを設け、アメリカ人の雇用を優先させることを目的としています。

 仮にこの法案が通過した場合、日本人を含む外国人が米国プロスポーツで働くことはほとんど不可能になるでしょう。平均賃金の低いスポーツ界では、正規雇用条件ですら相場賃金を下回るケースがあります。前職で余程華麗な実績がない限り、アメリカ人も含め大卒の人材はインターンでふるいにかけられた後、エントリーレベル(日本の新卒採用のイメージ)の営業職からキャリアをスタートさせるのが一般的です。

 大卒(院卒)とはいえ、タダでも働きたいという人材が掃いて捨てるほどいるスポーツ界では、エントリーレベルの年収はメジャースポーツでもせいぜい2~3万ドル程度といったところでしょう。マイナー競技ならさらに低賃金になります。こうした労働環境が当たり前のスポーツ界で、H1-Bビザの最低年収が13万ドルに上げられた場合、外国人を雇用するスポーツ組織はほぼなくなるでしょう。

 スポーツ先進国アメリカでスポーツビジネスを学び、本場のスポーツ組織で働くことを夢見る日本人学生や社会人から私も相談を受けることが少なくありません。しかし、この法案が通過すれば、残念ながらそうした“アメリカンドリーム”の入り口に立つことも許されずに門前払いされてしまうことになります。

 この影響はスポーツビジネス留学に限った話ではありません。MBA取得のために米国留学を考え、卒業後米国企業での就労を考えている人は、初任給が13万ドルを超える企業に就職できるトップスクールでない限り、留学を考え直す必要があるかもしれません。