建ったまま死なないために

 今後、日本のスポーツ施設における命名権契約を含めた事業価値向上に必要なのは、まず施設保有者が「大家」としての意識を捨て、「事業パートナー」としてテナントに向き合う柔軟な姿勢でしょう。施設保有者が「大家」としてテナントからの賃料を受け取るだけで、汗をかかずに施設運営を行おうと考えている限り、その施設の事業価値を向上させることは難しいでしょう。

 スポーツ施設は激変する事業環境の中に生息する生き物のような存在です。ファン基盤は地域ごとに異なるうえ、競合環境も年々変化します。そうした中で、競合するスポーツ施設や他のエンターテインメントと差別化し、独自の価値を訴求できるポジショニング(米国ではこれを「Value Proposition」と呼ぶ)を確立する努力を続けなければ、その施設は建ったまま死んでしまいます。

 これまでスポーツ施設で稼ぐ意識の薄かった日本では、施設構想・設計時点では競技への配慮(どの競技を施設の設計対象に考えるか)に目が向きがちでした。しかし、今後は事業的観点から収益性を高めるという視点での施設設計も同様に求められるようになるでしょう。

 前述のように、政府は2025年までに全国20カ所にスタジアム・アリーナを建設する目標を掲げています。これ以外でも、民間主導でいくつものスポーツ施設の建設構想が立ち上がっています。新たなスポーツ施設が建設されるということは、過去のしがらみや慣習にとらわれずに命名権や共同設立パートナー制度の導入チャンスがあるということです。

 米国では、施設設計(建設着工前)の時点で収益最大化のためのデューデリジェンス(投資対象調査)を行ってくれる企業も存在します。要は、事業的観点から施設設計のダメ出しを行ってくれるのです。日本でも、近い将来こうしたサービスが当たり前に利用されるようになるといいですね。