男らしさが売り物のプロスポーツ界では、精神衛生面の問題はタブー視されるケースが多く、選手は問題を抱えていても助けを求めづらい環境にあります。そうした特殊性を理解し、スポーツの側から選手を積極的に支援するように、時流が変わりつつあります。

 昨年、ニュージーランドのサッカー界で画期的な出来事がありました。サッカー協会と選手会との間に結ばれた新労使協定に、選手のメンタルヘルスに関する条項が盛り込まれたのです。

 これにより、代表選手が国際マッチに召集される際にはチームドクターが個別面談を行い、メンタルヘルス悪化の兆候があればカウンセリングが提供されるようになりました。これは、元ニュージーランド代表チームの主将クリス・ジャクソン氏が自身の精神衛生上の問題を公にしたことに端を発しています。

 MLBでも、シカゴ・カブスやボストン・レッドソックス、ワシントン・ナショナルズなどの球団が昨年から選手の精神衛生に配慮した「メンタルスキル・プログラム」を導入し、「ライフスキル・コーディネーター」(life-skills coordinator)や「メンタルスキル・コーチ」(mental-skills coaches)といった役職を新設する動きが出てきています。

個人を断罪するだけでは不十分

 先月、日本からクライアントを迎え、マジソン・スクエア・ガーデンでNBA(米プロバスケットボール協会)の試合を観る機会がありました。試合前、アリーナ最前列のコートサイド席に座る大男に多くのファンが写真撮影を求めていました。

 その時は「あの人誰だろう。体の大きさから見てフットボールの選手かな?」くらいにしか思っていませんでした。ところが、試合中に「今日の有名人」としてビジョンに映しだされたその人は、復帰に向けて更生中のサバシア選手だったのです。その瞬間、アリーナは割れんばかりの拍手に包まれました。

 臭いものに蓋をして切り捨ててしまうのは簡単です。しかし、清原容疑者に起こったことは、どのプロスポーツ選手にも起こり得ることです。もちろん、清原容疑者の行為が事実なら、それは許されるものではありません。しかし、薬物中毒は、選手個人の問題であると同時に、選手の置かれた環境の問題でもあります。

 日本のスポーツ界もその事実を見据え、選手を守る包括的なメンタルヘルス・プログラムを導入すべき時期に差し掛かってきているのかもしれません。清原容疑者も、いつかサバシア選手のように社会復帰し、日本中のスポーツファンから割れんばかりの拍手で暖かく迎えられる日が来ることを願ってやみません。地獄を見たからこそ、後進に語れるストーリーもあるはずですから。