野球選手なら、午後7時からのナイターをプレーし、試合後の取材を終えて帰宅すれば日付が変わっていることも珍しくありません。しかし、アドレナリンを全開にしてプレーした直後にすぐに寝つけるはずもありません。遠征ともなれば、試合終了後にそのまま空港に直行し、遠征先に向かいます。チャーター機での移動とはいえ、ホテルに着くのは夜明け前。その日の夜にまた試合がやってきます。

 こうした過酷な環境の中でサバイブを求められるプロスポーツ選手には、アル中やうつ病などの精神的な病を抱えている選手が少なくないであろうことは想像がつく話です。実際、米メジャーリーグ(MLB)にもこの手の逸話はたくさんあります。

 例えば、最近ならテキサス・レンジャーズのジョッシュ・ハミルトン選手(2010年のアメリカン・リーグMVP)はアルコールと薬物の依存症だったことを告白していますし、98年に完全試合を達成したヤンキースのデビッド・ウェルズ投手は、自伝の中で登板時は酒に酔っていたことを暴露しています。古くは、MLB史上唯一ワールドシリーズで完全試合を達成したドン・ラーセン投手も登板当日は朝まで酒を飲んでいたと言われています。

 日本でも、米国同様にこの手の逸話は昔の選手の豪快さを示すエピソードとして語られてきた節があります。弱さを見せることが負けに等しいプロスポーツ界では、深刻な精神衛生上の問題であっても、それを武勇伝や笑い話として処理するしかなかったのでしょう。選手として成功することができたとしても、華やかな現役生活にピリオドを打ち、全く新しい人生を歩むことを強いられる引退後には、多くの選手がストレスを抱えることになります。

選手に対する支援の動き

 近年、こうした過酷な環境でプレーする選手を「等身大の人間」として理解し、包括的な支援を行う動きが出てきています。例えば、昨年プロサッカー選手のメンタルヘルスに関する画期的な調査が国際プロサッカー選手会(FIFPro)によって実施されました。

国際プロサッカー選手会(FIFPro)のサイト

 この調査は、ベルギー、チリ、フィンランド、フランス、日本、ノルウェー、パラグアイ、ペルー、スペイン、スウェーデン、スイス11カ国の選手に対して実施されたもので(現役選手607名、引退選手219名が対象となった)、以下のような衝撃的な事実が明らかにされました。

  • 現役選手の23%、元選手の28%が睡眠障害を訴えている
  • 現役選手の9%がアルコールの乱用を認め、引退選手では25%に急増する
  • 現役選手の38%、元選手の35%が過去1カ月間に不安やうつ病の兆候を報告した
  • 重度の怪我とうつ病の相関関係が認められた
  • 3回以上重症を負った選手は通常の2~4倍の確率でメンタルヘルス上の問題を報告する