小学生に代理人が付く日がもうすぐ来る?

 過去記事『動画配信サービスがスポーツメディアにもたらす地殻変動』でも解説しましたが、現在欧米のプロスポーツ組織はテレビ放映権バブルの中にいます。大まかに見て、米国のメジャースポーツならリーグ全体収入の3分の1から半分はテレビ放映権収入です。つまり、テレビマネーが入れば、スポーツビジネスとしての規模が一気に拡大していきます。

 冒頭のLLWSの放映権(8年総額6000万ドル)や、MSG Varsityのニュースは、テレビマネーがユーススポーツに入り始めたことを意味します。米国では、既に大学スポーツでは巨額の放映権収入が生まれていますが、同じことが高校生やそれ以下のスポーツでも起こっていくかもしれません。

 そうなれば、早晩問題になるのが「選手への分配」という議論です。この問題は、過去記事『「学生アマチュア規定は違法」としてNCAAが敗訴』でも触れましたが、既に大学スポーツでは、「アマチュアリズム」を盾に学生選手への報酬の支払いを禁止する一方で、学生選手のプレーから巨額の富を生み出しているNCAAに対して、「学生アマチュア規定は法律違反」とする判決が昨年確定しています。

 これにより、米国の大学スポーツはプレーの対価として選手に何らかの報酬を支払うモデルへの転換を迫られていますが、ユーススポーツでビジネス化が進展すれば同じような議論が起こるかもしれません。これは遠い悪夢ではありません。

 冒頭で触れたLLWSを開催しているLittle League BaseballはNPO法人として組織されており、IRS(米国国税庁)より501(c)(3)免税組織として認められています(これにより、自身が税の減免措置を受けられるだけでなく、ここに寄付する個人・法人の寄付金が税控除の対象になる)。

 Little League Baseballには、ESPNからの放映権収入やスポンサー収入、グッズ収入などで年間約2500万ドル(約27億5000万円)の収入があります。現CEO のSteve Keener氏が40万ドル(約4400万円)以上の報酬を得ているのを筆頭に、10万ドル以上の報酬を受ける役員が6名います。

 このKeener氏は、2014年に選手(つまり小学生)への報酬の必要性を問われ、「今報酬が必要とは考えないし、支払うべきとも思わないが、支払いが適切と思える時期が来たら検討する」(If at some point in time that would be deemed to be appropriate, we'll consider it. At the moment, I don't see the necessity and don't think we should be compensating kids right now)と答えています。小学生に代理人が付き、「ユーススポーツ代理業」という産業分野が生まれる日もそう遠くないかもしれません。

 このように、スポーツのビジネス化の進展(低年齢化)は市場を拡大しますが、一方で選手への分配の議論を引き起こします。そして、一旦事業化の波が起これば、後戻りすることは困難です。「小学生に代理人が付くかもしれない」と言われて、「まさか、そんな」と思った方も少なくないかもしれません。でも、日本でも芸能界では既に子供のタレントは大手芸能事務所に多数所属しており、多額の報酬を受けている“子タレ”も少なくありません。

 米国では、今後ユーススポーツが大学スポーツの何倍もの規模のビジネスになっていくでしょう。若いうちに競技を1つに絞る「競技の専門化」もさらに進んでいくと見られています。今後、米国スポーツ界は図らずもユーススポーツビジネスが競技力を減退させていく「合成の誤謬(ごびゅう)」(ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも意図しない結果が生じること)に向き合わなければならなくなるでしょう。