カメラが来るぞ、用意はいいか?

 まずはこの動画を見て下さい。コマーシャルなのですが、何のCMだか分かりますか?

 実はこれ、MSG Varsityという高校スポーツに特化したテレビ局のCMです。文字通り、1日24時間、高校スポーツに関する番組をノンストップでオンエアしています。

 MSGは、“世界で最も有名なアリーナ”として知られるマンハッタンのMadison Square Gardenや、NBAニューヨーク・ニックス、NHLニューヨーク・レンジャース、スポーツ専用テレビ局MSG Networkなどを保有する米国最大のスポーツ複合企業の1つとして知られ、その売り上げは13億ドル(約1430億円)を超えます。そのMSGが2009年からスタートさせたのが、このMSG Varsityです。

 CMの途中に出てくるタグライン(強烈なメッセージ)「The Cameras are Coming, Get Ready」(カメラが来るぞ、用意はいいか?)が象徴的ですが、今までテレビとは縁のなかった高校スポーツも普通にテレビ中継される時代が来たということです。高校スポーツにもビジネスの波がやって来たのです。

低年齢化を進めた“モノ言う株主”とは?

 米国でスポーツビジネスの低年齢化が大きく進展したのはここ10年弱の話なのですが、そのきっかけは意外なものでした。日本では“リーマン・ショック”として知られる、あの世界的金融危機です。

 金融危機に際し、米国政府は金融機関を救済するために7000億ドル(約77兆円)もの巨額の公的資金を投入しました。これにより、連邦政府から州政府やその下の地方自治体に回される補助金が大幅に削減されたのです。

 地方自治体による住人サービスの中でも、警察や消防、教育機能などは削ることができませんから、補助金削減の直撃を受けたのが地域スポーツでした。従来まで、リトルリーグなどの地域のユーススポーツでは、競技の備品(ボールやバット、ユニフォーム、スパイクなど)は補助金で賄われていたそうです。補助金の減額により、代わりに子供の親がその出費を強いられることになりました。

 金を出せば口も出したくなるのが人間の心理です。これにより、親がユーススポーツの“モノ言う株主”になってしまったのです。「大切な我が子に少しでも高いレベルのスポーツ教育を受けさせてあげたい」。こうした子を思う親の気持ちが、スポーツビジネスを低年齢化させる原動力になっています。日本で起こっている受験戦争の低年齢化のような現象が、米国ではスポーツ界で起こっているのです。

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