対策2:「I(私)メッセージ」で中立的に主張する

 心理学者トマス・ゴードンが提唱したコミュニケーションスキルである「I(私)メッセージ」を使うと、この権力闘争回避と勇気づけの両方を行いやすい。B室長の間違った指示や命令に対して、YOU(あなた)メッセージで問題を指摘するのではなく、I(私)メッセージで答えるのだ。

(NG行動)
「B室長、あなた(YOU)の指示は間違っています。こっちが正解です」
⇒YOU(あなた)メッセージであり、権力闘争的な縦の関係
⇒相手の勇気をくじき、優越コンプレックスを強化するNG行動

(OK行動)
「B室長、ありがとうございます。私(I)はこのような方法も有効なのでやってみたいと考えますが、試してもいいでしょうか?」
⇒I(私)メッセージであり、解決指向の横の関係
⇒相手を勇気づけ、優越コンプレックスを弱める方向に働く行動

 正しいことほど相手を傷つけるものだ。相手を凶暴かつ強い怪獣と思えば、懲らしめたくなる気持ちもよくわかるが、モンスター上司のB室長は実は大きな着ぐるみを着た小さな子犬なのかもしれない。部下の立場で考えれば、そんな上司を持ってしまった自分の不運さを嘆きたくなるだろう。しかし、その現実を受け入れ、少しでもうまくいくように建設的に考えれば、上記のような対応ができるようになっていくのではなかろうか。肉を切らせて骨を断つ。大きな志のために目先の小さな勝ち負けを捨てる。つまり、部下の側こそが、上司以上に高い視点を持って、小さな上司に接していくのだ。

最後に

 ここまで読まれた方は、こう思うかもしれない。「なぜ部下の側がそこまでやらなければならないのか?」と。

 その答えは前回と同じだ。本コラムで提示しているのは「こうしなさい」「これが正解だ」というものではない。あくまでも「アドラー心理学ではこう考える」「私だったらこうするなぁ」でしかない。このコラムから、何を読み取り、どう行動するかは、読者の皆さんにかかっている。私は皆さんが何かしらのヒントをつかんで下さり、お役に立てたとしたらとてもうれしい。

 部下は上司を選べない。であるならば、私たちにできるのは、できることに集中し、変えられないことを変えようとしないことなのかもしれない。アドラー心理学では、環境は変化する、と考える。モンスター上司B室長もスタッフにとっては環境の一つだ。もしも、部下たるスタッフたちがB室長を継続的に勇気づけていったなら、B室長も変わっていくかもしれない。

 人生の課題は、すべて対人関係の課題である――。こう語ったアルフレッド・アドラーの心理学を、ビジネスでのコミュニケーションに応用する手法をわかりやすく、具体的に解説します。

 どうすれば、上司、同僚、部下と良好な人間関係を築き、仕事の成果を継続して高めていくことができるのか。そのキーワードは「距離感」。アドラー心理学を長年研究し、日々の仕事に生かす道を模索してきた筆者は、「近づきすぎず、遠ざけすぎない」「押しつけず、遠慮しない」コミュニケーションこそが、理想の関係を創り出すと説きます。

 ベストセラーとなった『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』に続く、「アドラーの教えをビジネスに生かすシリーズ」の第2弾として、悩みを抱える多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい1冊です。