対策2:「正の注目」+「感謝の言葉」で勇気づけ

 「同情」や「叱責」といった勇気くじきをなるべくやめる。それと同時にぜひ行っていただきたいのが積極的な勇気づけだ。勇気づけの第一の基本は「正の注目」と「感謝」である。「よくやった」「偉い」と上から目線でほめるのではなく、「一所懸命やっているね」「助かるよ、ありがとう」と横から目線で共感的に勇気づけるのだ。

 アドラー心理学では、感謝の言葉「ありがとう」こそが最大の勇気づけであると考える。人は感謝されることで自分が他者に貢献していることを実感する。勇気の量とは、極言すれば、自分が他者に貢献できるという自信、すなわち貢献に関する自己信頼と言えるだろう。だからこそ、周囲の人、たとえばA子さんにアシストしてもらっている営業マンがことあるごとに彼女に「ありがとう。助かるよ」と伝えることはとても大きな勇気づけとなる。

 また、その際に「正の注目」を加えると、より大きな効果を生む。正の注目とは、「いいところを見る」ということだ。たとえ、A子さんの行動の8割が望ましくないものだったとしても、2割の望ましい行動すなわち「正」に着目し、それを勇気づけるのだ。アドラー心理学では、着目した行動が増える、と考える。つまり、A子さんのため息や消極性に着目するからそれが増えてしまう。そうではなく、わずかであっても望ましい行動に着目し、感謝を伝えるのだ。

 また、あたりまえのことを見逃さず、感謝を伝えることも重要だろう。お客さんの電話を取るのはあたりまえ、ではない。「電話、ありがとう!」。そんな一言も勇気づけになる。郵便を出してくれたら、あたりまえではなく「ありがとう!」。その繰り返しがA子さんを勇気づけ、彼女の言動を変えていく。

最後に

 ここまで読まれた方は、こう思うかもしれない。「勇気づけの理論はわかるけど、ここは学校ではなく会社だ。そこまでやる必要が果たしてあるのだろうか?」と。

 その答えは私にはわからない。「職場の同僚をどこまでサポートするべきなのか?」という疑問に、唯一無二の正解はない。それは一人ひとりが自分で決めることであり、会社ごとに、もしくは職場ごとにリーダーが指針を示すことなのかもしれない。

 本コラムで私が提供することは「こうすべきである」「こうしなくてはならない」という主張ではない。「ちなみに、アドラー心理学ではこう考えますよ」「アドレリアンならこう行動するかもしれません」「アドラー心理学を学んでいる私だったら、こうしたいなぁ」。それが本コラムのメッセージだ。そして、このスタンスもまた、アドラー心理学そのものであると思う。

 本コラムが皆さんにわずかでも気づきやヒントを提供できたらうれしく思う。次回もまた、職場の"困ったちゃん"対策について、皆さんと共に考えていきたい。

 人生の課題は、すべて対人関係の課題である――。こう語ったアルフレッド・アドラーの心理学を、ビジネスでのコミュニケーションに応用する手法をわかりやすく、具体的に解説します。

 どうすれば、上司、同僚、部下と良好な人間関係を築き、仕事の成果を継続して高めていくことができるのか。そのキーワードは「距離感」。アドラー心理学を長年研究し、日々の仕事に生かす道を模索してきた筆者は、「近づきすぎず、遠ざけすぎない」「押しつけず、遠慮しない」コミュニケーションこそが、理想の関係を創り出すと説きます。

 ベストセラーとなった『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』に続く、「アドラーの教えをビジネスに生かすシリーズ」の第2弾として、悩みを抱える多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい1冊です。