対策2:勇気を満たせば、人は貢献を求める

 では、アドラー心理学では草食男子・八木田さんに対してどのように接することが考えられるのか。

 まずは仮説の1つ目である「草食という究極目標」に対して、その目標を変更させるような働きかけは不要であろう。つまり「草食」の八木田さんを「肉食」化させよう、というA課長の課題の立て方があるならば、その目標自体を改めるべきだと考えるのだ。

 アドラー心理学では「何を持っているか」ではなく、「どのように使うか」を大切にする。つまり、八木田さんの持っている究極目標に注目するのではなく、草食ならば草食なりに、その目標の適切な使い方を支援する方向で考える。八木田さんの価値感を大切にしながら、企業が求める目標との重なりを増やすよう支援を考えるのだ。

 それは具体的にどのようなことだろうか? 仮に八木田さんの価値感が草食男子的な「傷つき、傷つきたくない」というものであるならば、A課長は八木田さんと共に周囲の人を守ったり、安心させたりする仕事の仕方を考える、という支援方法があるかもしれない。

 「どうすればクライアントにもっと安心してもらえるだろうか?」「チームのみんなが安心して働けるような環境づくりのために八木田さんができることは何だろうか?」などと問いかけ、共に考えていくのもその1つだろう。「売り上げを上げるための策を考えよ。ビジネスなんだからドライに考えろ」という論調で迫るのは逆効果だ。

 上記の「安心を大切にする」アプローチは「持ち物を変えるのではなく、使い方を変える」という意味合いでも有効である。同時に勇気づけという観点からも有効。八木田さんからすれば自分を尊重されている、と感じるからだ。

 先に述べた通り、アドラー心理学では勇気が補充されれば人は放っておいても「もっと良くなろう」とする、と考える。そして「人は誰かに貢献して役に立ちたい、と本質的に願っている」と考える。勇気づけはきっと八木田さんの「貢献したい」という思いを高めてくれることだろう。その意味では、二重の効果が期待できる。

 そして、八木田さんがクライアントやチームのメンバーに貢献してくれたことがたとえわずかであってもそれに注目し、言葉で伝えることだ。その際には上から目線で操作的な「ほめる」ではなく、横から目線での共感的な「勇気づけ」の言葉を選んでほしい。

「ありがとう。とても助かるよ。みんな喜んでいるよ」。そんな言葉が彼の「貢献意欲」に火をつけるだろう。

 肉食が良くて、草食がダメなのではない。同様に草食が良くて肉食がダメなのでもない。アドラー心理学の前提条件である「相互尊敬、相互信頼」を前提として、縦の関係ではなく横の関係で、建設的な行動を実践していく。このケースでもそれが求められている。

最後に 

 古代メソポタミア文明の遺跡に「今どきの若い者は嘆かわしい」云々の文章が残されている、というのは有名な話。いつの世も、世代間ギャップは存在し、そして年長者は若者を嘆く。それが数千年前から繰り返されているのだろう。

 私自身もA課長と同じように「新人類」「理解不能」と呼ばれた世代であり、現在は逆に「今どきの若い者は・・・・・・」と語る年代となってしまった。まさに、歴史は繰り返しているわけだ。しかし、嘆いているだけでは何も変わらない。そこで、このアドラー心理学が大切なヒントを投げかけてくれるのではないか、と思うのだ。

 本コラムから、皆さんが何かしらのヒントをつかんでいただければうれしく思う。次回の第5回をお楽しみに。

 人生の課題は、すべて対人関係の課題である――。こう語ったアルフレッド・アドラーの心理学を、ビジネスでのコミュニケーションに応用する手法をわかりやすく、具体的に解説します。

 どうすれば、上司、同僚、部下と良好な人間関係を築き、仕事の成果を継続して高めていくことができるのか。そのキーワードは「距離感」。アドラー心理学を長年研究し、日々の仕事に生かす道を模索してきた筆者は、「近づきすぎず、遠ざけすぎない」「押しつけず、遠慮しない」コミュニケーションこそが、理想の関係を創り出すと説きます。

 ベストセラーとなった『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』に続く、「アドラーの教えをビジネスに生かすシリーズ」の第2弾として、悩みを抱える多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい1冊です。