なぜ日本でお茶の文化が育ったか?

楠本:店舗をつくる上で、コンセプトは絶対必要です。ただ、伊右衛門サロン京都は特殊で、多くの会社が参画し関係者がたくさんいた。お茶とカフェ、歴史と現代。異業種同士の集合体。違うものを融合させるには、誰もが納得できるだけの強いコンセプトが大事。準備も時間をかけてやった分だけかなり深いコンセプトに練り上がりました。

 「日本茶を世界のお茶にする」というのがみんなの目標。「日本茶は日本人しか飲まない」と思っている限り、プロジェクトは失敗するんです。

 漆黒の飲料のコーヒーは世界に普及したわけです。いつか日本茶が世界に普及する時には、どんなプロセスをたどるんだろう、どんなアプローチが必要なんだろうと夢想していくことが大事なんです。

 ただ、そのためには、なぜ日本でお茶が育ったのかも知らないといけない。過去に遡り、栄西禅師が8世紀に南宋から持ってきたことがはじまりであることを知り、もともと「お茶ってグローバルなもの」だったことに気がついたんです。そして、この文化がこれから、どこで熟成されて、どこに広がっていくか――ということを考えていました。

沖中:「日本文化とは何か?」と考えた時に、やはり千利休に代表される「わびさび」ではないですが、あの四畳半程の茶室の中でもてなされたおもてなしの心、花鳥風月をめでる心、人に対しての対応の仕方、そういうところに凝縮されているんです。

 ただ、海外に行った時に「日本とは?」と聞かれたら、茶室の左右非対称の絵とか、風や音を感じることとか…いろいろとあるんだけど、実は一番ユニークなのは、「その茶室の中ではみんな刀を置いて入り、語り合うこと」なんですよ。刀を置き、戦わない行為を暗黙の内に感じさせることが、日本らしさ。これって、世界でも際立つものだと思いました。

楠本:僕らみたいな一般人からすると、茶室などというと、しきたりや作法ばかりが気になってしまい「究極の世界平和の作法」だなんて思いもしない。でも、「(茶室への出入りに使う)にじり口から入った瞬間から、1対1で対峙する究極のコミュニティ形成の手法」だと言われると、関心が高まるのではないでしょうか。

 お茶を飲みながら、頭をクリアにし、お互いに研ぎ澄ましていくという中で一体になっていくと、言葉はそんなに必要ではなく、発せられる言葉や作法がひとつひとつ丁寧になり、言葉は少なくてもとても親密度の高い瞬間が生まれてくるんです。

 それが、抹茶を回していただくというような、所作や、しきたりや、作法の方に注目が集まり過ぎてしまうと、本来の意味が海外の人に伝わりにくくなる。そういったマインドを現代風にどう解釈するかというのが、このプロジェクトのチャレンジだった。この視点は自分がつくるカフェに対する大切な考え方になりました。

京都に新しい店が生まれた風景を想像してみる

小西: 伊右衛門サロン京都がオープンをする時、僕は「開いた」という感覚を持ちました。「お茶」は伝統にこだわりすぎると、本質じゃなく様式だけが残ってしまいます。それじゃ海外にも伝わらない。だから本質を持ちながら、未来に開かないといけない。そこでペットボトルやカフェのような「革新」を入れるんです。そうすれば今の人にも海外の人にも受け入れられるようになりますからね。だから、完成した伊右衛門サロンを見たとき、「これは世界の人にも伝わるな」と思い嬉しくなったんです。そこにペットボトルやカフェのような「革新」を入れれば新しい人にも受け入れられるようになります。ですから、完成した伊右衛門サロンを見たときに、「これは世界の人にも伝わるな」と思い嬉しくなったんです。

 京都って「伝統の街」といわれることが多いんですが、歴史的には、京都という街は、最先端であり革新の都市だったんだと思います。 そんな京都の人に対して一番やってはいけないことは、“昔風なもの”を、今作る感覚。

 京都人は、偽物が大嫌いなんです。だって街の至る所に、数百年や千年近い歴史が沢山あるんですから。たかだか、200年前の茶屋風に創っても受け入れられません。

 それよりも、昔から受け継がれたエッセンスを抽出した上で「革新」するモノゴトに惹かれるんです。だから、京都の人たちも伊右衛門サロン京都は嫌いじゃないと思います(笑)。昔から京都に流れている、歴史を重んじつつ革新する感覚を持ってるから嬉しいんですよね。海外の人にとっても、気軽なカタチで日本を味わえるので楽しいんだと思います。

 例えば、伝統的な茶室に入ってしきたりに従ってお茶を飲めと言われても、ほとんどの人ができない。海外の人ならなおさら難しい。でも、伊右衛門サロン京都なら気軽に来られて、ちょっと飲んで、お茶にも興味を持てる。そして日本にも興味をもつきっかけになる。そういうコミュニケーションが、伊右衛門サロンにつくりたいと思ったんですよね。

沖中:「伊右衛門サロン京都」をオープンして2、3年は、京都の皆さんは様子を見ていたと思います。でも、使い勝手が浸透してきて、“仲間”として迎え入れてもらえたような気がしています。

小西:京都らしい(笑)。京都は伝統都市でもありますが、革新都市なんで、新しいものが大好きなんです。

 楠本さんはよく「数字から入らず、風景から入る」と言っていますよね。将来このお店ができた時、周囲の風景に馴染むかどうかから考える、と。この伊右衛門サロン京都も、最初の企画段階では、多分、京都の町屋とかにあるものを想像した人が多かったのではないかと思います。いわゆる暖簾があったりする古い店構えです。でも、楠本さんは「え、そんな普通のところに行きたい?」と思い、あえて別の企画を提案された。それがよかったんだと思います。

楠本:風景を想像せずに数字や机上のアイデアから入ると、失敗するんです。そんなことを考えているぐらいなら、朝から晩まで街に立って風景をみている方が絶対いい。街ゆく人たちは、どこから来て、どこへ向かっているのか。どんな会話をしているのか。日々どんな暮らしをしているんだろうか。ヒューマンスケールで街を、その場所を見つめ続ける。そうすることではじめて街の風景となる場所を創ることができるんだと思っています。

執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長


1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。

日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。