沖中:僕は飲食店をつくったことがなかったので、どの場所につくるのがいいのかさえも分かりません。そんな時に、京友禅で有名な創業450年の千總(ちそう)さんの本社1階という場所の話をいただいた。

 その場所が良いのか悪いのかも私には分かりません。そうしたら、カフェ・カンパニーさんのスタッフが、四六時中、その場所の前に立って、通行量や、どういう人たちの往来があるのかまで調べた。

楠本:僕らにとっても京都は未知な街でした。実は、それまでは割と直感で場所を決めていたんですが、判断材料は少しでも多いほうがいい。僕らとしては珍しく通行量調査もやりました。

沖中:カフェ・カンパニーさんからの報告では「自転車で通勤している人が多く、住んでいる場所と働いている場所が交差するエリア。少し路地に入っているけど、逆にいろんなタイプの人がいるので、多様な使い方ができる場所として、地元の人に愛される店になる──。ここはすごく良いと思います」と太鼓判を押された。

 本当は、千總さんは海外の有名なファッションブランドに貸す予定だったそうなのですが、歴史ある千總さんだからこそ日本文化のお茶のある風景を一緒に作ってくれることに共感を示してくれて、僕らが借りることができたんです。

楠本:その交渉の時の話を聞いて、歴史ある老舗の1階でお店をつくることに、今まで以上に緊張もしましたけど、同時に覚悟もしました。140坪の広さで、おまけに、ど真ん中に厨房をつくらざるを得ない構造。要は開業したら360度のオペレーションを強いられる、僕らの経験値外のプランだったからです。図面だけを見ても「ここで本当にやるのか?」と、ちょっとビビッていました(笑)。

和風ではなく洋風の空間、だけど文化は伝わる

小西:ところで、あの場所は、京都人からみても”京都”を随所に感じられるつくりになってますよね。

楠本:入り口から吹き抜けていて、中に入ると少し小上がりになっています。入って天井高の高いエリアが家と外界の境界線である「縁側」の役割。奥に路地をつくって、そこに竈(かまど)があって、つくばい(縁側近くの庭に備えてある手水鉢)があって、奥にカフェがあります。

 京都の町屋のレイアウトを勉強させてもらって、厨房を取り囲むように奥へ展開するかたちにしました。欧米人にとっても使いやすいモダンな現代風なお店になったと思います。暖簾もないし、和というよりも洋の空間にもなっている。大変でしたけど、設計はとても楽しかったですね。

起工式を迎えても正式な「GOサイン」は出てなかった

楠本:それにしたって企画、コンセプトづくりでもかなりの投資だったはず。よく社内で企画が通りましたね。

沖中:いや、実は起工式をやったその日も、まだ社内での正式決済が下りてなかったのです(笑)

小西:それは思い切りましたね! ところで、僕は場所選びには参加してませんが、数々のリスクがありながら、この場所を選んだ理由はなんですか?

楠本:ここでやろうと思った理由の1つには、ここの日本庭園の魅力でした。光の入り方が柔らかくてすごく心地いい。一言でいうと「気が良い」。そしてもうひとつは、碁盤の目の京都の中で珍しくここはT字路になっている「つじ止め」。そういうのってすごく珍しい。こういう場所は人や情報が「溜まる」場所。つまり、コミュニティが育つ場所なんです。

沖中:まったくの余談ですが、起工式で千總さんの菩提寺のお坊さんが来られてお経をあげてくれた。ここの中庭に、祠(ほこら)があって木像のお地蔵さんが2体安置されているんです。

 聞くところによると、その2体のお地蔵さんは比叡山延暦寺から来たそうで、あの織田信長の焼き打ちに遭っても奇跡的に残ったとても縁起の良いお地蔵さん。そのお地蔵さんを千總さんのご先祖様が、ちゃんと自分のところでお祭りされ、中庭にほこらを造って安置されていたんです。

 そのお経を聞いている時に、「これは大丈夫だ」と不思議と思えたんです。

楠本:そのほか源氏と平氏があそこで会談をしたという話も聞きました。この場所が持つ様々な記憶に想いを馳せながら、絶対成功するという気持ちも強くなっていきましたね。