このシリーズの最終回の鼎談のテーマは「日本文化」。お招きしたのは、日本人が昔から飲み続けてきた「お茶」を新たなスタイルで企画開発、数々の記録を塗り替え、大ヒット商品となったサントリーの緑茶飲料「伊右衛門」の開発プロジェクトリーダー沖中直人氏(サントリー食品インターナショナル 執行役員)。そして、もう1人が「モノより思い出」といった名コピーで知られ、伊右衛門のCMをはじめ、数々のヒットCMを手掛けてきたクリエイティブディレクター小西利行氏。
本稿の筆者である楠本修二郎も含め、この3人が携わった「伊右衛門サロン京都」の開発話を中心に、日本文化の発信、伝え方のデザインを考える。
(連載 第1回、 第2回、 第3回、 第4回、 第5回 から読む)

楠本:サントリーの緑茶飲料「伊右衛門」をコンセプトにした京都の和カフェ「伊右衛門サロン京都」の立ち上げには、僕も小西さんも参画させて頂きました。振り返ってみると、2008年にオープンしたこの店舗の開発をしてから、自分の中でも「なぜ自分がカフェをやるのか」「コンセプトをどう練り上げていくのか」などといった手法が明確に整理された気がしているんです。
今回は、この開発の経緯を振り返ることで、カフェのつくり方、日本文化の伝え方についても話せればいいなと考えています。
まず、このプロジェクトの成り立ち、経緯を紹介したいんですが、そもそも、沖中さんが伊右衛門サロン京都を創ろうと思ったきっかけは何だったんですか?
大ヒットした「伊右衛門」、次は海外進出かカフェだとの思い
沖中:伊右衛門サロン京都ができたのは、2008年。そのさらに4年前の2004年に、緑茶飲料「伊右衛門」が発売になりました。お陰様でお客様の支持を受けて、本格緑茶のポジションを獲得することができました。「さて、次はどうしようか?」といろいろと考えているうちに、2つのアイデアが浮かびました。
一つは海を渡って、アメリカに行くこと。そしてもう一つが、人と人をつなぐお茶(日本茶)が真ん中にあるカフェを創ろうということ。
そして、この考え方のベースにあったのが、「お茶は生活文化をデザインすることができる」という岡倉天心の『茶の本 The book of tea』でした。
当初、ブランドの開発も一緒にやってきた博報堂さんチームに相談しましたが、できてきたプランを見て、「これは、プロモーション・ショップだな」と思いました。ビジネスとしてのリアリティをまったく感じなかったんです。そこで、博報堂さんに、「今、東京でカフェをやっている会社で『コレは!』と思う会社を3社ピックアップしてほしい」とお願いしました。そこで最初にピックアップされていたのが、カフェ・カンパニーさんだったんです。

サントリー食品インターナショナル 執行役員
1968年生まれ。兵庫県出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。1991年、サントリー(現サントリーホールディングス)に入社。資材部を経て1996年に食品事業部に異動。無糖茶飲料のブランドマネジメントおよび新製品開発を担当する。2004年に発売した「伊右衛門」の開発でチームリーダーを務め、大ヒット&ロングセラー化実現の立役者となる。2008年、京都に「伊右衛門サロン京都」を開業させるなど数々のブランドビジネスを展開。現在は、サントリー食品インターナショナルの執行役員 食品事業本部 ブランド開発第一事業部長。
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