楠本:僕が、コミュニティをつくる仕事で気をつけているところは、決して「押し付けがましくならない」ことなんです。健やかに育くめているかどうか、ということは常に自問自答しています。これでいいんだと断定することはありません。

 ただ、いずれ、育っていく時のタネやヒントをちょっとずつ置いておくイメージを持っています。そのためのアイデアを手持ちとしてどれだけ持っていられるか、そこの勝負なんです。

量的な「幸福」には限界がある時代に大切なこと

谷川:その店とか、「場」というのは面白くて、そこにいるスタッフたちが発信している雰囲気がよくないと、お客さんもいい人が集まらない。受け入れる側と、そこに期待して来る人たちの気持ちの交流・循環がないとダメなんです。

楠本:そうですね。いくらかっこいい店でも、スタッフの雰囲気が良くないと、店全体が心地よくない空間になってしまいます。お客さんの気持ちと同期できる人は重要です。

谷川:お店にとっては、いかにファンを増やして、もう一度来てもらえるかどうかが大事な課題。これまでそのリピーターになってくれる人たちをどうやって探していたかといえば、マーケティングです。単純化して言えば「富裕層が大事」みたいな発想で、世帯収入などといった指標や切り口を頼りにしてきたんです。

 でも、最近では“体験をコレクションする人たち”といかに出会うかが重要です。お金を持っている、持ってないではなくて、その体験に対して投資をする意識がある人たちかどうかです。「エクスペリエンス・コレクター」ともいいます。

 その人たちの特徴は、自分が良いと感じると、必ず同じような価値観を持った人を、次の機会に連れてきてくれるんです。一緒に体験することで、その輪がどんどん広がっていく。それがコミュニティになっていくんですね。

 起点はやはり人。だからお店にいるスタッフのエネルギーはとても大事です。その人たちが持っている感性と、お客さんが期待する空気感がマッチしたとき、そこはなくてはならない場所になるんです。

涌井:「考え方や生き方は違う。それでも一緒の部分がある」という感覚が大事ですね。残念なんですけど、いまは司馬遼太郎が書いた『坂の上の雲』の時代のように、みんなで努力して一生懸命、坂を上っていけば必ず青空が見える時代ではない。今まで使われていた幸福という意味での「幸福」はこれ以上伸びしろはない。みんなももう量的に拡大できず、深めることはまだまだできると理解しているのでは。

 だからどこか閉塞感があり、スーパー・ポジティブにはなれない。だけども、似たような価値感を抱いて生きている人や仲間を見ると、そこに触発されてポジティブになれる。それを求めているような気がしますね。