東京の魅力の1つは「食」にあり

楠本:あとエッジを立てるとしたら、やはり「食」だと思います。

梅澤:そうですね、僕が東京に戻ってきた理由の1つは食生活の水準ですね。ニューヨークは決して美味しくない。純粋に味で評価したら、ニューヨークの三つ星レストランで、東京の一つ星に負けるのがごろごろありますよ。

楠本:店の内装や世界観のつくり方、料理の見せ方などプレゼンテーションは上手ですけどね。

高島:ランチでも東京とニューヨークの違いはありますね。東京のランチは、5~600円でもまあまあ美味しいじゃないですか。ニューヨークは1500円ぐらい出しても…(苦笑)。

楠本:世界基準で見た時、東京は安過ぎます。

梅澤:食の水準が高いのは、一般の消費者の味覚レベルが高くて、提供側が鍛えられていることと、全国で整備された食産業のインフラの差だと思います。もっと『食』の魅力を伝えたら、海外の人が日本から出ていけなくなるのではないか?それくらい、一番効果的なパワーを持っているコンテンツだと思います。現に、日本人の僕たちにもそれはかなり効いているから(笑)。

楠本:そう。あと日本の価値は「四季」だと思います。サクラのシーズンは既にビジュアルで理解されています。夏は、海岸線の総距離が世界第6位の日本ですから、海の街、海の国というのが北海道から沖縄までイメージしやすい。冬になるとアジアでもスキーができるトップクラスの国です。これも非常に分かりやすいインバウンド動機に既になっています。秋はなかなかそういったキャラクターが見えにくかったのですが、世界に向けて強力に発信されていない秋がこれからキーになると思っています。

高島:日本の秋といったら、美しい紅葉。そして、実りの季節ですよね。

楠本:ええ。それで一緒に始めたのが「東京ハーヴェスト」ですよね。ドイツといえばオクトーバーフェストのように、ビールとともに収穫祭を祝い、大いに集い賑わっている風景が世界中に拡散されています。その風景が、海外からもあそこに行ってみたいなというモチベーションに繋がっています。フランスのパリでは、シャンゼリゼ通りが「巨大農園」に姿を変えた「ネイチャー・キャピタル」と呼ばれる農業イベントがあったわけです。プロバンスをはじめとした田舎暮らしのブランディングに貢献しています。そうやってどの国も『食』を使ってブランディングをしている。日本もそういった秋の収穫祭を、より強く世界に対して発信していくことで、春夏秋冬を通して一年中魅力的な国であることをアピールできると思ったんです。

 2013年から毎年11月に東京のど真ん中、六本木ヒルズアリーナをメイン会場として2日間開催しています。コンセプトは「東京から、ラブレターを」。ラブレターという言葉には、生産者さんへの「ありがとう」を伝えようという気持ちを込めています。僕たち生活者は、生産者さんに感謝の気持ちを伝える機会がなかなかありませんよね。だから、実りの秋に、「いつもありがとう」という気持ちを生産者の皆さんに東京のど真ん中から伝える収穫祭をやろう、と。このイベント、来場者数はもちろん、外国人の方の来訪も年々増えていっています。

東京ハーヴェスト

「僕らは未来にむけた、面白いことしかやらない」

梅澤:最近、未来の東京の話をすると、「もっと高齢化社会のことを考えて欲しい」とか「防災はどうするんだ」とか聞かれるんですが、防災など政府が当然検討、着手しているテーマについては素直に「すみません、分かりません」とお答えしています。NEXTOKYOは民間組織なので、役所と違ってすべての論点をカバーする必要はない。むしろ、東京という都市の未来にむけて、面白いことにフォーカスしたいと考えています。

楠本:全体的に底上げしていくというよりも、もっとポイントをしぼってコンテンツやその背景にあるストーリーにフォーカスしてもいいと思います。言うなれば、ボトムアップじゃなくて、ピックアップです。以前、限界集落のおじいさんたちが、自分たちが収穫したお米を使って、餅つきをしてくれました。みなさん、すごく素敵な笑顔をされていました。もちろん生活面では、大変なことも多々あるんだと思いますが、その時に、混じりっけのない純度100%のエネルギーをすごく感じることができたんです。そういう人たちと会う経験が価値だと世界中が気付けば、「限界集落」が世界の中での桃源郷のような存在になれるのではないかと思いました。

 世界には実はそういうことを求めている人がいるんです。そこに気付いていただくきっかけをつくっていきたいですね。そういう沢山の多様な地域の魅力が日本にはあります。そのハブとしての東京の価値が上がれば、東京がメトロポリタンシティーのトップになりえるのではないでしょうか。

 実は、ニューヨークはこうしたハブ機能を意識し始めたように見えます。ロングアイランドやモントークのエリアは、いままでは別物扱いのようでしたが、グレーター・ニューヨーク(複数の自治体の合併により拡大したニューヨーク市 (City of New York) を指す非公式の用語)のように、ニューヨークはマンハッタンだけではなく、ハドソン川の北側にあるオーガニックな農場エリアあたりも、グレーター・ニューヨークに取り込もうとしているんだと思います。

梅澤:それはブルックリンの存在が大きいでしょう。ブルックリンを包含してないニューヨークのブランディングに、時代遅れになるリスクを感じているんだと思います。

高島:ニューヨークは、家賃が上がるたびに同性愛者の方々が追い出されて、その人たちが移動したところに新たな文化ができています。それはSoHoだったり、ブルックリン北部だったり、ちょっとずつ移動しています。そういうクリエーターの人たちが文化をつくるとすぐに家賃が上がるらしいのですが、結果的に最先端な人たちが移動していくと、その人たちが通った場所が最先端の状態になっていき、かっこいい地域が広がっているんです。地域間で人材を移動させるというのはすごく良い効果が生まれています。

楠本:東京でも同じ方向性に向かっている気がしています。多様な人々が混ざり合い、ポジティブな化学反応があちこちで起きて、しなやかに変態しながら、新たな価値が次々と生まれていく都市。これからの東京が楽しみですね。

執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長


1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。

日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。