楠本:もっと“人生の実験”をする人が増えてもいいと思うんだけど、う-ん、教育の影響なのかな。日本は解答型の教育プログラムが多いので、1つの正解、答えを求めがちになる。

 僕の話をすると、僕は20代の頃、「自分がまったく前進していない」と思って焦っていました。なので、とにかくいろいろなことに飛び込んでいきました。あっちに行ってみたり、こっちへ行ってみたり、いろいろなことに踏み込んでチャレンジしているうちに、次第になんとなく真ん中が濃くなってきた。どんどん踏み込んで、端の端まで行くと「辺境」も見えるんです。この辺境のところが一番多様性が満ちあふれていて新しい発見がある。実際、その辺境を超えたらもっと面白いかもしれないという目標もできてくる。

キム:カーナビゲーションシステムが最初からついているクルマを運転するのではなく、自分で走りながら地図データを広げ、針盤も同時につくっている感覚?

楠本:そうですね。自分で切り拓いていくしかなかった。というのも、僕が会社(リクルートコスモス)に就職した1988年に、ちょうど「リクル-ト事件」(※リクルートの関連会社で未上場の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として政治家、官僚に譲渡されていたことが発覚。戦後最大の企業犯罪に発展)が起きました。最初に所属した部署の関係で、いきなり東京地検特捜部にも出入りする時期を過ごした。だから新卒から数年間、ちゃんとした「仕事」をしたことがない。肉体的にも、精神的にもかなり追いつめられました。

 それでも、人間って本当に追い詰められると、気持ちがどんどん研ぎ澄まされていくんですね。今でもすごく心配性なんですが、ピンチになると逆に冷静になれるんです。それは恐らくあの経験があったおかげ。

キム:楠本さんは「誰よりも心配性なのに、誰よりもチャレンジをしてきた」ところが興味深いです。結果的にその一番苦しかった時代が、一番自分が成長できた時代でもあるのかも。

自由度が高いパタゴニア、「この会社で不幸になる人もいます」

本田:僕は、別にみんながみんな「“旅”をしなくてもいい」と言っているんです。僕やジョンの生活って、向き・不向きがあります。だから絶対すべきだとは思ってません。

 以前、パタゴニアを取材した時に「うちの会社は自由度が高くてこんなにハッピーそうに見えるかもしれないけど、この会社で不幸になる人もいるんですよ」と言われたことがあります。「自由にやって」と言われて嬉しい人ばかりじゃない。「自由」と言われると一体何をしていいのか困惑する人もいるんです。

 だから、学生たちには「僕の言っていることをやらなくていい。ただ、僕みたいな人生もある。一応、選択肢として知っておいた方がいいよ」と伝えています。それで自分に向いていそうであれば、やればいい。他人の意見に左右されるのではなく、自分で見たものを信じてやることです。

楠本:パタゴニアがうまくいっているのは、あの組織風土と無関係ではないでしょう。ライフスタイルを提案する企業としてメッセージを発信していて、それが消費者のみならず、働く人たちの共感やモチベーションにもなっています。企業が生み出すものって、モノ以上に「共感」が大切だと思っています。そういう感覚が企業にはもっと必要。

 確かに、ナオが言う通り個人の自由なんだけど、経営者としては“自由人”をあえて育てることを仕掛けていかないといけないのかなぁとも思っているんですが…

本田:ただね、そうとも言い切れない。以前、「新しい働き方」をテーマに取材していた時に出た結論はね「自由にすると会社がダメになってしまう」だったんです。

楠本:企業としての価値観、文化を一方的に発信するだけじゃ不十分。働く人たちのパーソナリティをも意識していかなきゃいけないのかも。

本田:最近は、採用の時に「この人は、自分たちと合うかどうか」という基準を設ける企業が増えています。GoogleとかAppleもそうでしたが、採用の入り口をとにかく厳しくしています。採用者1人で決めるのではなくて、チームだったらチーム全員がOKを出さない限り採用されないんです。

キム:自由な社風”だけを売り物にしてもうまくいかない、というのは、まさにそうだと思います。会社にいるだけで満足してしまう人ばかりだと成長しない。自由な環境の中でありながら、同時に、自立することを良しとする文化・風土があれば組織は自然に回るようになると思います。自由だけでビジョンがなかったり、そのビジョンを形にするための働く人たちの力が伴わなかったら、その組織はいずれダメになります。

楠本:うちの会社もそうであって欲しいと思っています。会社としての決めごとや管理も必要以上にはしない。現場で自由にやってもらっていますし、本部でも社員を集めての会議もほとんどない会社です(※役員たちの定例会議はあります)。会議よりも会話を大切にしていきたい。だから、本(『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』)を書いた時も、「世間に1社ぐらいこんな会社があってもいいんじゃない」という思いで発信したつもりなんです。もちろん全てが完璧にできているわけじゃない。「そういう会社にしちゃえ!」と自分に向かって宣言した部分もある。宣言したからには実現しないとね。

執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長


1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。

日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。