楠本:会社として、それを制度化するのはどうでしょうか。

宮坂:違う部門間のランチには奨励金を出す、という会社もありますよね。最近は、社員食堂をすごく充実させる会社もある。会社は会社でそこはいろいろと悩んで、ハードや制度でできることを一生懸命やっているんだと思います。ただ、杉本さんの言われたように、社員食堂をつくっても、いつものメンバーと同じテーブルにいることになるのであれば意味がない。もうひとひねり必要なんです。

 米国のネット系の会社ってみんなオフィスをつくるのに工夫しています。ある意味、オフィスが最大の企業文化を表す装置であり、最大の社内報的な存在になっている。グーグルやフェイスブックもそれぞれ、「自分たちらしさ」というカラーがすぐに分かる仕掛けを組み込んでいるでしょ。それを形容するとしたら「カフェ」という言葉が浮かんだんですね。

日本なら、一軒家や廃校をオフィスにする?

楠本:企業が大きくなると難しいかもしれませんが、職人的な物づくりをしていく場としても、会話が弾むカフェっぽい場としても、どちらでも成立するとしたら…、日本だったら一軒家のようなオフィスがあるかもしれない。

宮坂:日本の場合やはり土地が狭くてオフィスビルが中心になるんですが、オフィスビルでは人は縦に動く必要があります。人は横の移動はできるけど、階段の上下移動って途端に面倒くさくなるのが欠点。横に50メーターは動けますが、上に5メーターは非常に億劫になるんです。そう考えていくと、使われなくなった学校の再利用がいいかな。「キャンパス」と言うじゃないですか。あれだったら、社内を歩き回るかな…(笑)。

楠本:最近、廃校になるところをオフィスにしたいという企業が出てきていますよ。学校に注目する流れはあります。

杉本:ただ、廃校になっている場所はへんぴなところが多いんです。駅前とかには学校を造れませんから。そこが課題ですかねぇ。

会社に行く必要はあるのか?

宮坂:昨年、オフィスの引越しをしたのですが、次はもう移転したくないと思っているんです。

 僕自身、「何で会社に行かないといけないんだ?」と思っていました。そう強く思ったのは震災の時。当時、家で仕事をしていいと言われたのですが、全然困りませんでした。リスクさえコントロールすれば問題ない。ただ、そう思う一方で、みんなと会話はしたいんです。会議はスカイプなどでできますが、同じ空間で会話することがしたいとも強く感じました。

杉本:人には会いたいんですよね。

宮坂:そう。会ってワーっと勢いを持ってアクションするのがやはり良い。会社というのはサロンに近くて、みんなが集まってワァワァと話し合う、そういう場だよなと思ったんです。仕事の実作業は別にどこだってできるようになりましたしね。

 だから、何で人がオフィスに行かないといけないのかというと、純粋に人と会うため。唯一、社員が会社に来てくれないと困るのは管理職と社長だけです(笑)。

杉本:実際、本当に社員のみんなが会社に来なかったら、ちゃんと所定の業績をおさめられるのでしょうか? やってみないと分かりませんが。

宮坂:いま、月5回の「どこでもオフィス」というのを試験的に実施しています。みんな自宅とかで仕事をやっているんですが、リクルートさんは毎週、無制限にそれを承認しているそうですね。

杉本:仕事はどこでもできるけど、同じ空間、場を共有しているとか、一緒にご飯を食べることがますます大事になってくる。

宮坂:そのためには、オフィスの雰囲気も施設としても、行きたくなる環境をやはり会社側が用意しないといけません。これからは、社員に来ていただくという感覚が必要なんだと思います。街中のカフェの方が近いし、その方が楽だから社員は来なくなってしまいます(笑)。

杉本:楠本さんの会社には、滑り台もありますからね。うちも航空機やカフェカウンターを置きました。

グライダーアソシエイツの社内。エントランスには、航空機のボティが横たわっている。(上段) フリーアドレスのデスクと並んで、フィアットの自動車を模した冷蔵庫も。そのうしろ、木が生えているところがカフェカウンター。(下段)

滑り台で降りると、みんなにっこりしている

楠本:僕もそうなんですけど、眉間にシワが寄っていても滑り台で降りると、みんなにっこりしているんです(笑)。物理的に何かを仕掛けるというのはいいですよ。

カフェ・カンパニ-のオフィス内にある滑り台。

杉本:カフェのコーヒーの香りが普通に漂ってくると、単純に何かちょっとアガる感じもありますね。

宮坂:そう。嗅覚も大切。会社にいると風も感じませんし、パソコンに向かっていると、五感の一部である目だけが妙に疲れ切ってしまいます。第六感も含めて、いろいろなものを開いていない状態。それで、匂いや視覚による居心地の良い刺激が、その感覚を少し開いてくれるのではないでしょうか。

楠本:仕事中というのは交感神経がフル回転している状態。そこにコーヒーの香りのようなもので、副交感神経が動く瞬間を意図的につくれればアイデアが生まれる可能性は高くなると思います。

宮坂:昨年移転した新しいオフィスをつくる際には、社員の心技体のサポートをして欲しいとプロジェクトチームには依頼していました。ビジネスマンだって世界で戦っているわけですから、オリンピック選手と変わりないんです。アスリートは睡眠から食べ物から完璧に管理して、不注意で風邪なんかひかないようにしているわけです。同じように、ビジネスマンが「前の晩、飲み過ぎて、今日はパフォーマンスが上がらない」なんという言い訳は、もうプロとは言えないわけです。

 ですから将来的には、会社へ来たら、自分の体のコンディションを調べて、「今日は悪いから早めに帰れ」とか「今日、お前は絶好調だから、まだまだ頑張れる」とか、データに基づいたサポートができるといいなと思っています。管理じゃなく、サポート。

楠本:次世代のオフィスでの働き方は、「LABOR」から「ACTION」へと変わっていくのだと思います。単純労働ではなく、人としてのミッションを持って「こう生きていきたい」という個人のアクションが増えてくるのが、いい働き方であり、いいオフィスのあり方ですよね。“オフィスのカフェ化”というのは、そういうポジティブなライフスタイルとワークスタイルをつくっていくことなのではないかと思います。

執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長


1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。

日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。