マニュアルは状況が変化した時にリスクにもなる

楠本:横の関係や斜めの関係をつなげるためには、キーワードというか、共通の理念が必要だと思うんです。

杉本:ただ、大企業の場合はやはり大きな方針なり、逆にこれはやらないというタブーのようなものも、ある程度決めておかないと大変なことになるでしょう。

 マニュアルなしでもできるのは、例えば「ワイアードカフェ」という1つのアイコンがあるじゃないですか。既に「ワイアードカフェはこういうものである」ということを理解しているお客さんがいて、通い詰めた人がアルバイトに入ってきたりしているからマニュアルがなくともできるのでは、と思うのですが。

楠本:確かに。ただ、マニュアルはないんだけど、僕は会社の存在意義は社員にはしつこいぐらい言っていますよ。

宮坂:文化ですよね。マニュアルは形骸化しますし、状況が変化した時に逆にリスクにもなってしまいます。手っ取り早いのはマニュアルですが、より強力なのは文化によって、みんなの行動規範が決まっていくことだと思います。

 僕が飲食業が羨ましいと思うのは、目の前にお客さんがいるということです。僕らネットの会社では、お客さんのことを知ろうとデータを見るんですが、お客さんが喜んでタップしているのか、怒ってタップしたのか、お客さんの表情が分からないんです。ページビューが20%増えれば2割喜んでいるだろうみたいなことは考えるのですが、それでは何か抜けているんですよね。お客さんの素直な反応って、素直に共有できるテーマだと思うんです。

楠本:ネットビジネスの方々の話をしていて羨ましいと思う部分もありますよ。僕ら飲食業の場合は、1週間、2週間で飽きられるメニューを作っていたら商売にならないんです。なので、新しいお店をオープンしたその日から既に、メニューの見直しが始まる。時間との戦いです。

 ネットビジネスはそれよりもレンジが長いのかな。だいたい「失敗してもいいから、新しい企画を上げよう」と言ってから、どのくらいの猶予があるものですか。トライ&エラーを繰り返す時間的な余裕はどれくらいあるのか。もちろん事業規模にもよるでしょうが…。

杉本:僕の場合は、1カ月とか四半期毎に顧客のログを見て判断しています。そこからプロモーションをもう1回入れ直すかどうかとかの議論をしているので、我慢の時間は楠本さんよりも長いかもしれない。でも、先ほど宮坂さんもおっしゃっていたように、楠本さんの商売は直接お客さんの反応が見える。リアルな空間があるから、その時その時の結論が見えると、1週間で何となく分かるじゃないですか。これって全然受けてないなとか。この場所だとダメなんだなとか。

楠本:でも、その場所が仮にダメだったとしても簡単に逃げられない(笑)。ネットだと、「じゃあこのサービスをやめて次はこれやってみよう」とか切り替えはやりやすいように見えますけど。

杉本:いや、実は結構時間が掛かかるんですよ。

宮坂:うん、なかなか簡単にはできない。

人は人間関係を維持するための努力をしない?

楠本:業種は違うけど、誰だって失敗はしたくないですよね。そこで社内での会話の機会を増やすことで、擬似的にトライ&エラーを増やせる、ということはないでしょうか? 会議だと意思決定することが目的になっちゃうので、その前の段階の会話を増やすことが重要だと思うんです。

宮坂:ある経営者のインタビューで「会議というのは、基本的にアイデアを潰すためにあるんだ」と言い切っている人がいて、「これって結構、名言だな」と思ったんです。 “前向きな反応”というのは会社から失われやすいものなので、意図的に、そうならない仕組みをつくらないといけない。その1つとして会話が弾む場づくりなんです。

杉本:ヤフーさんだって、最初は昔の日本企業的な職場でしたよね。デスクが全部フラットでしたし、テーブル4つに電話が1個真ん中にポンと置いてある感じでした。2000年くらいだったと思いますが、パーティションで各デスクを囲う全員「個室タイプ」が主流になり、「最初は凄いなぁ」と思っていたんですが、実際には、あれって社員が自分の世界に入ってしまって…一気に会話がなくなった。そしていまは、パーティションスタイルも流行らなくなった。うちも置いてないです。

宮坂:僕らも撤去しています。

杉本: 300人ぐらいいるフロアだと、パーティションがなくてもコミュニケーションは意外と生まれないんです。ちょっと自分の席と離れた他のメンバーの動向が分からない。歩き回っている人もいなくて…。結局、僕が一番歩き回っていたりとかするんです(笑)。だから、パーティションをなくすとか、フラットなフロアだけでは解決しない。

宮坂:そのために、コミュニティーをつくることも考えています。人間関係って、少しの間、話さないだけですぐに関係性が切れてしまいます。フェイスブックができてもう1回つながって、今度はちゃんと維持しようと努力しているんですが、あっという間に切れてしまいます。やはり人は人間関係やコミュニティーを維持することに対して時間をあまり割かないのだと思います。

 もっと意図的に隣の人に声を掛けることや、前の部署で繋がっていた人と月に1回はご飯に行くとか…。そういう努力をすることが大切なんだと思います。

 例えば、週に1回お昼ご飯を隣の部署の人と食べると決めてしまえば、1年間に50回は他部署の人と食べられる。週に10人とランチをすれば500人になり、相当豊かな財産になる。別にリターンを求めてやるわけではないんですけど、ある種の習慣化は必要かなと思います。