もちろん、デザインを多少変更したくらいで大ヒットを実現できるほど、世の中は甘くはない。運転しやすく二酸化炭素をはじめ走行中は一切の排ガスを出さないという特徴に加え、消費者の感性に訴えるEVを商品化する、という選択となる。

 感性に訴えたモノづくりで成功している日本の自動車メーカーといえば、いまはマツダと富士重工業(スバル)だろう。特にスバルは、シリコンバレーなど米市場で高い人気だが、エスノグラフィーに近いマーケティングにより14年発売の新型レガシィをヒットさせた実績をもつ。

スバルの成功の背景

 エスノグラフィーとはマーケティングリサーチの中で、定性調査としての中核的な手段だ。日本では馴染みが薄いが、欧米企業では広く使われている。伝統的な調査手法とは異なり、調査する対象の内部に入りインタビューしたり、詳しく観察したりすることで、いわゆるインサイト(消費行動などの核心)を見いだしていく。電通とエスノグラフィーの共同研究を行う藤田結子・明大商学部准教授は「先行事例のない革新的な製品開発にエスノグラフィーは役立つ反面、成功ノウハウはみな企業秘密になる」と指摘する。

 スバルの場合、14年10月発売の新型レガシィ(5代目)において、発売までの5年間にわたり、商品企画部門の幹部らが米国のユーザー宅を訪問し、スバル車がどう使われているのかを探って歩いた。米国の一般家庭では複数のクルマをもつことは多く、スバルの社員ということを伏せて調査会社の担当者と一緒に行動。それぞれのライフスタイルの中に潜む、いくつものインサイトを突き詰めていった。

 スバル車は、水平対向エンジン、乗用AWD(全輪駆動)、さらには運転支援システム「アイサイト」といった独自技術を持つ。だが、こうした技術を先行させるのではなく、インサイトに応じた打ち出し方を追求していった。大きな変更点として、新型レガシィはボディサイズを一回り大きくさせたのだ。日本の自動車評論家たちはみな批判したが、米市場では大ヒットしていく。

 富士重工の吉永泰之社長は、「スバルはこうきたか、とお客様の心を打つ商品を作り続けなければならない。ただし、これは実は難しい。技術屋はお客様の心よりも、技術へのこだわりを優先しがちだから」と、指摘する。

 さらには、数量をひたすら追求すると、インサイトに応えた個性的な商品はつくりにくくなる側面もある。

 2020年までに自動車を巡る環境規制は、世界規模で強化されていく。米カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションヴィークル=排ガスゼロ車)規制、欧州連合のCO2排出量規制、さらには中国の「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画」などである。