艱難辛苦の末に成功を収めたが……

 文頭に述べた「“君子報仇, 十年不晩”」という言葉は、中国メディアが20年後にいじめを受けた教員に復讐を行った常某堯の事件から連想して引用したものである。君子ではない常某堯を2280年前の“範雎(はんしょ)”と比べることはおこがましいが、己の心に忠実にいじめを受けてから20年後に張某林に対する恨みを晴らした常某堯を応援したくなるのは人情というものか。

 中国メディアは逮捕された常某堯について次のように報じている。すなわち、常某堯は、欒川県の“欒川郷某村”の出身者であり、幼少時に両親が離婚し、常某堯は弟と一緒に父親によって育てられた。家は非常に貧しく、学校では同級生の誰もがきれいな服を着ている時でも、常某堯だけはそうでないというような辛い日々を過ごしたという。そうした環境にもめげずに大学を卒業した常某堯は、浙江省へ出て創業を果たし、経済状況が良くなった後は同郷の人々への支援を行っている。常某堯は通常は浙江省の杭州市で暮らし、インターネットショッピングサイトの“淘宝”などを通じてアパレル関係の商売を行っている。

 艱難辛苦の末にビジネスで成功を収め、同郷の人々にも支援を惜しまないという常某堯が、20年前の復讐を果たそうと当時のクラス担任である張某林に暴行を加えたのはどうしてだろうか。それは、張某林が彼に加えたいじめと虐待がわだかまりとして心に残り、いつまでも消えずに彼を苦しめたからではなかったか。逆に言えば、そのわだかまりが常某堯の成長を支えたからこそ、彼を大学卒業、創業、ビジネスでの成功へ導いたと言えるのかも知れない。

 逮捕された常某堯には何らかの罪が下される可能性はあるが、張某林に復讐を遂げたことによって心のわだかまりを除去できたので、常某堯がその復讐劇を悔いることはないと思う。それこそが「“君子報仇, 十年不晩”」の本当の意味ではないだろうか。

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