ところで、上述した『2017年作業計画』にある主要任務の第3項目には「“散煤”管理を強化し」という記述がある。2015年12月21日付の「中国能源報」が報じた“散煤”に関する記事には、「“散煤”は家庭で暖を取ったり、飲食などに用いる石炭を指し、通常の状況下では小型の工業用ボイラーにも用いられる。“散煤”には未だに明確な定義がないことから、その使用状況に対する統計も正確なものとなり難い。推定では、我が国の燃料用石炭のうちの20%~25%が“散煤”であり、毎年の消費量は6億~7億トンと思われる」とある。“散煤”とは、採掘されたままの石炭で、選炭(原炭に含まれる無機物を分離・除去すること)をしていない低品位の石炭を指す。これを燃やせば二酸化硫黄などの有毒ガスが大気中に排出されて、PM2.5の濃度上昇に貢献することになる。

頼みの天然ガスも不足

 中国政府が大気汚染防止措置の重点に置いたのは、“散煤”の使用を抑制することだった。従い、PM2.5が深刻な北京市を中心とする2+26都市で“禁煤令(石炭禁止令)”を発令して、“電代煤(石炭に換えて電気)”と“気代煤(石炭に換えて天然ガス)”を推進したのだった。

 しかし、その結果は関連工事の遅延により多数の地域で暖房を使えずに凍える人々が発生し、その数は2+26都市で1000万人以上に達したという。河北省の廊坊市・保定市の“禁煤区(石炭禁止地区)”だけでも、105.4万戸の庶民が暖房に問題が発生、あるいは暖房が全くない状態を余儀なくされたのである。問題はそれだけではなかった。2+26都市を含む北方地区で“煤改気(石炭を天然ガスに換える)”が実施されたことにより、北方地区の天然ガスの需要が急上昇し、天然ガスの消費量も大幅に増大したため、“供不応求(供給が需要に応じきれない)”の状況となったのである。

 中国政府“国家能源局(国家エネルギー局)”発行の『中国天然ガス発展報告(2017)』によれば、2017年の天然ガス消費量は2303億~2343億m3で、一次エネルギー消費に占める天然ガスの比率は7%に達し、前年に比べて245億~285億m3増加、その伸び率は11.9%~13.8%と予想していた。しかし、11月15日の暖房開始による需要と“煤改気(石炭を天然ガスに換える)”による新たな需要が重なったことにより、天然ガスは供給不足に陥った。このため、その影響は内陸部の陝西省“西安市”にまで及び、西安市内の170カ所以上の団地では天然ガスの供給が途絶え、暖房が使えなくなったという。天然ガスの供給不足により各地の“燃気公司(ガス会社)”は“限気通知(天然ガス供給制限通知)”を発表し、ユーザーに対して必要に応じて天然ガスの供給を停止する旨を通告した。

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