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「ごね得」処罰に喝采

 この女性については、いかなる処罰も与えられなかったようで、関連記事をチェックしても何もない。要するに、“覇座”に関しては、上述した孫赫のように、罰金と一定期間の乗車券購入制限が処罰の限度と考えられ、T398の女性のように何の処罰も受けない「ごね得」が通用することもあったのである。そうした状況に一石を投じたのが、文頭に述べた北京青年報の記事で、「“動真格了(まじでやった)”」と喝采を浴びたように、処罰を「罰金」から一歩踏み出して「行政拘留」まで拡大したことだった。

 ところで、中国ではどうして“覇座(座席占領)”が多発するのか。教育レベルが低いからだというのは、上述した孫赫が韓国の圓光大学博士課程の学生であることを考えると説明がつかない。もっとも、孫赫は人間検索を受けたことにより過去に行った各種の悪事が露見しており、本質的に悪事を平然と行うタイプの人間であることが判明しているので例外と言えるのだが。

 この点について中国メディアが報じている意見は、鉄道の列車長や乗務員、さらには鉄道警察官が“覇座”に対して寛大で、厳しい処罰を行うことなく、200元程度の罰金で済ませて来たことが、「指定席だろうが、誰も座っていない空席に座って悪いか」という意識を持つ人々を増長させたというものである。それは、最悪でも200元の罰金で済むというなら、屁理屈を並べながらも指定席に座っていた方が得だといった感覚を持たせるに至ったということである。誰かが“覇座”で得をしたという話を聞けば、俺も俺もと模倣犯が出て、いつの間にかそれが流行するという中国の伝統的な行動形態なのである。

 “覇座”の処罰にようやく「行政拘留」が導入されたことで、模倣犯の出現率は低下すると思うが、“覇座”をより一層厳しく取締り、厳罰に処すことが改善の鍵だと思われる。中国には“殺鶏給猴看(ニワトリを絞め殺してサルを脅かす)”という成語があり、日本の「一罰百戒」と同様な意味を持つが、1件でも良いから典型的な“覇座”事件に厳しく対処して、メディアを通じて大きく報じ、ごね得は絶対に許されないと人々に示すことが、中国社会の改善には不可欠だと思う。但し、こうした事件は中国だけでなく、日本でも少数とはいえ発生しているのである。

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