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当事者の特定、容易に

 ところで、中国では今年の8月以降に列車の乗客による“覇座”事件が頻発するようになり、それがメディアのニュースによって報じられることにより世論が盛る上がると同時に、“覇座”の当事者が社会から指弾を受けることが多くなっている。その原因はネット社会であり、限られた個人情報から当事者が容易に特定されることにある。

 2018年8月21日、山東省の「済南駅」発「北京南駅」行の列車No.G334に乗った“王新穎”(仮名)という女性が、自分が購入した窓際の指定席(座席F)に座ろうとしたら、何とその席にはすでに赤の他人の男性が座っていた。驚いた王新穎が男性に乗車券を示して自分の席だから座席を空けるように要求したところ、男性は「俺はこの席が良い」と言うばかりで動こうとしない。困り果てた王新穎が列車長に窮状を訴えて呼んでくると、男性は列車長の要求に応じて乗車券を示したが、そこに記載されていたのは1列後ろの窓際の指定席(座席A)であった。列車長が「ここはこちらの女性の指定席だから、座席を空けて、貴方自身の指定席へ移動して欲しい」と要求すると、男性は「座席から立つことができない」と言い出した。

 これを受けた列車長がどこか身体が悪いのかあるいは酒でも飲んでいるのかと尋ねると、男性は「酒なんか飲んでいない」と反発した。さらに、列車長が酒を飲んでいないのに、どうして立てないのかと聞くと、男は「俺にも分からない」と答えた上で、「下車する駅に着いても立てないと思うから、車椅子を用意しておいて欲しい」と述べ、その後に「俺は絶対に俺の席には座らない」と言い放つと、王新穎に向かって「あんたもそこに立っていないで、俺の席に座るか、食堂車へ行けば」と言う始末だった。

 王新穎は大学を卒業したばかりの女性で、「済南西駅」から乗車したが、男性は1つ前の始発駅である「済南駅」から乗車して、彼女の指定席に座ったのだった。男性に対しては列車長のみならず鉄道警察官も自分の指定席に座るように説得を試みたが、らちが明かず、王新穎には“商務車廂(グリーン車)”の席が、男性が彼女の指定席を空けるまでという条件付きで手配されたが、結局彼女はグリーン車に座ったまま終点の北京南駅に到着した。