逆上した男が凶行

【4】そんな矢先に現れたのが陳世峰だった。劉鑫に未練を残す陳世峰は劉鑫を連れ戻そうと劉鑫の居所を探し求め、遂に劉鑫は江歌が居住する中野区のアパートの部屋で同居していることを突き止めた。11月2日午後、陳世峰は江歌の部屋に押しかけたが、当時部屋の中には劉鑫しかいなかった。劉鑫は外出していた江歌に電話を掛け、戻って陳世峰を帰らせて欲しいと依頼した。江歌は警察に連絡しようかと提案したが、劉鑫はこれを拒否したので、江歌は大急ぎで自分の部屋に戻った。陳世峰は江歌の前で劉鑫にしつこく自分の元へ戻るように要求したが、江歌は大学院へ、劉鑫はアルバイトへ行く時間となったことから、3人で一緒に部屋を出てJR東中野駅で別れた。

【5】しかし執拗な陳世峰はアルバイト先へ向かう劉鑫の後を尾行したばかりか、劉鑫の携帯電話にメールを送り、自分の所へ戻らないなら劉鑫のヌード写真をネットに流すと脅した。恐ろしくなった劉鑫は21時に東中野駅で待っていて欲しいと江歌に依頼した。江歌は21時に東中野駅に出向いたが劉鑫は現れず、近くのコーヒーショップで劉鑫の到着を待った。江歌は中国版Line“微信(WeChat)”の電話を通じて中国にいる母親と会話し、今日起こった劉鑫に関する出来事を報告し、母親からは「くれぐれも気を付けるように」との言葉を受けた。日付が変わった翌3日の午前0時8分、江歌が「今、劉鑫が着いたから電話を切るね」と言ったのが最後の言葉だったが、母親は通話が切れる前に江歌が「餃子を買って来たから一緒に食べよう」と劉鑫に言ったのが聞こえたという。なお、2人の通話時間は1時間42分だった。

【6】陳世峰は11月2日の23時頃に東中野駅へ到着し、23時40分頃に江歌のアパートの玄関前に現れた。江歌の部屋に電灯の明かりが無いのを確認した陳世峰は、玄関の前で劉鑫の帰りを待った。江歌と劉鑫の2人がアパートの近くまで来ると、玄関前にたたずむ陳世峰の姿があった。江歌はすかさず110番へ連絡し、「アパートの玄関前に不審者がいる」と通報した。それから2人がアパートに着くと、陳世峰は2人を追って江歌の部屋の前まで付いて来た。部屋の前で2人は陳世峰と対峙し、執拗に劉鑫に戻れと要求する陳世峰に対して江歌は「ここは私の家だから帰って」と反撃した。陳世峰はこれを歯牙にもかけず、劉鑫に罵声を浴びせ、劉鑫の腕を取って無理やり連れ帰ろうとした。江歌が2人の間に割って入って劉鑫をかばうと、激高した陳世峰は隠し持っていたナイフを取り出して劉鑫に迫ろうとした。

【7】その剣幕に驚いた劉鑫は江歌を外に残したまま部屋の中へ逃げ込んだ。陳世峰はドアノブを回して扉を開けようとしたが、扉は中から鍵が掛けられて開かなかった。それで逆上した陳世峰は反転して江歌に襲い掛かり、手にしたナイフで江歌をめった刺しにして殺害した後に逃亡した。その直後に通報を受けて駆け付けた警察官がアパートへ到着したが、現場となったアパートの廊下には血だまりの中に江歌が倒れていた。江歌は頭部の傷口からの出血が止まらず、病院へ救急搬送された後に死亡が確認された。