2016年11月15日午前8時40分、河北省の“石家荘市中級人民法院(地方裁判所)”(以下「中級法院」)は、“最高人民法院院長(最高裁判所長官)”が署名した死刑執行命令書に基づき、“故意殺人犯”<注1>である“賈敬龍”に対して銃殺による死刑を執行した。死刑執行に先立ち、同日早朝に中級法院は賈敬龍に父母と姉との最後の対面を許可したが、対面の終了直後に死刑は執行された。賈敬龍は享年30歳だった。

<注1>“故意殺人”とは、殺意を持って行われた殺人を意味し、故意殺人罪の最高刑は死刑。

 10月18日付で最高人民法院が中級法院による賈敬龍に対する死刑判決を承認したことが知れ渡ると、賈敬龍の境遇に同情する世論が沸き上がった。中国のネット上には多数の法学者や弁護士が死刑判決の見直しを求めて、「賈敬龍の死刑執行停止を求める嘆願書」への署名運動を呼びかけ、「“刀下留人(斬罪執行に待ったをかけること)”」を求める世論は盛り上がりを見せたが、最高人民法院に死刑執行命令の取り消しを促すまでの影響力を及ぼすことはなかった。

 11月17日、賈敬龍の家族は中級法院から送付された“領取骨灰通知書(遺骨受け取り通知書)”を受領した。その内容は以下の通り。

河北省石家荘市中級人民法院・遺骨受け取り通知書

犯罪人の賈敬龍は故意殺人罪により法に照らして死刑判決を受け、2016年11月15日に死刑が執行された。“死屍(死体)”はすでに火葬されたので、家族は本通知書を持参して2016年12月14日以前に“石家荘市火葬場”へ出向き遺骨を受け取ることができる。期限を過ぎて受け取りがない場合には、遺骨は火葬場によって処理される。

河北省石家荘市中級人民法院 2016年11月15日

遺骨の引き渡し、引き延ばしか

 上記通知書の日付が11月15日となっていることから考えて、賈敬龍の遺骸は11月15日の死刑執行当日に荼毘に付されたのだろう。遺骨の受け取り期限は12月14日となっており、死刑執行から丁度1か月後になっているが、通知書を額面通りに受け取って、家族が速やかに火葬場に出向いても、火葬場は種々の理由を付けて遺骨の引き渡しを引き延ばす可能性が強いと思われる。その理由は賈敬龍が報復目的で悪徳村役人を殺害したことにより庶民から英雄視されているからで、ネット上で行われた死刑執行停止を求める署名運動の沈静化を図り、遺骨引き取り後に行われる賈敬龍の葬儀に大挙して参列する可能性がある庶民の数を少しでも抑制しようという政府側の魂胆をうかがうことができる。

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