逮捕、閉鎖、診療費用全額負担

 こうして事件は、主犯の清掃員、その清掃員の行為を黙認して放置していた保育士ならびに組主任が幼児虐待の容疑で逮捕され、監督責任者たる園長が解雇されたことで決着した。携程公司は11月9日から親子園を組織立て直しのために閉鎖し、このために幼児を預けられなくなる社員には有給で2週間の休暇を与えると言明した。また、携程公司は関連する幼児の検診・診療費用および心理カウンセリング費用を全額負担する旨を表明した。

 中国では子供を“宝宝”という愛称で呼ぶほどで、子供は宝物のような存在と考えられている。この傾向は1980年頃に始まり、2016年1月1日に終止符を打った“独生子女政策(一人子政策)”によって、1980年以前よりもさらに強まった。その大事な子供が信頼して預けたはずの託児所で保育士によって虐待されたとなれば、当の子供の父母ばかりか一般大衆までが怒りを表明し、世論が沸騰するのは当然の帰結である。

 ところが、中国では3歳以上の子供が通う幼稚園については中国政府“教育部”の管轄であることが定められているが、3歳未満の子供を預かる託児所については所管官庁が明確でなく、グレイゾーンとなっている。このため、託児所は極めて少ないのが実情である。夫婦共稼ぎが当たり前の中国では、祖父母と同居あるいは近隣に祖父母が居住していれば幼児の世話を頼めるが、都市部では祖父母に頼れない夫婦も多く、彼らにとっては勤務中の不在時に幼児をどこに預けるかは非常に深刻な問題なのである。

 “上海市総工会(上海市の労働組合組織)”が2016年に行った調査によれば、上海市の託児サービスは極端に不足しており、上海市が独自に設置した託児所は35カ所に過ぎす、2011年に比べて21カ所減少していた。そこに預けられている幼児は5222人で、2010年に比べて3000人以上減少していた。上海市の0~3歳の乳幼児総数80万前後の中で、託児所に預けられている乳幼児の比率はわずか0.65%に過ぎないという。

 こうした深刻な状況下で携程公司が自社の従業員の福利厚生の一環として親子園を開設したことは、画期的なことであり、企業内託児所の先駆けとして有意義なことであった。しかし、管理の不徹底という思いも掛けない伏兵が大きな汚点を残す結果につながったのだった。

 日本では2016年2月に保育園の待機児童問題に強い不満を訴えた「保育園落ちた日本死ね」と題する匿名のブログが話題となり、この言葉は2016年のユーキャン新語・流行語大賞トップ10に選ばれた。こんな言葉を大賞に選ぶとは、選定した審査員の作為的意図を感じるが、こうした偏向が許される日本は良い国だと言える。これを中国に当てはめれば、「託児所ない中国死ね」ということになるが、中国でこのような題名のブログを公表すれば、間違いなく国家反逆罪で逮捕されるだろう。