秘密倉庫はシドニー郊外
それはさておき、上述した7 Newsの報道とは、9月21日付でSeven Networkが報じた『中国向け粉ミルクの秘密倉庫を摘発』と題するニュースであった。これは7 Newsの取材班が独自調査を行って摘発したものであったが、それは次のような内容だった。
【1】秘密倉庫はシドニー郊外のゴールドコースト工業団地(Gold Coast Industrial Estate)の中にあった。倉庫内には一面に商品棚が設置され、その上に粉ミルク缶が隙間なく積まれていた。地面には商品棚に入りきれない粉ミルク缶が大量に転がっていた。この他に、倉庫内には大量の段ボール箱が天井に届く程の高さに積み重ねられていた。
【2】倉庫内の人たちは記者が撮影するのに激しい反感を示し、手でカメラのレンズをふさいで抵抗した。彼らは速やかに立ち去るよう記者に要求し、記者の質問には回答を拒否して、警察に通報するぞと喚き散らした。
このニュースを踏まえてオーストラリアのメディアは、「スーパーマーケットの粉ミルク売場で空っぽの商品棚を見てがっかりして手ぶらでかえる地元のママがいる一方で、山と積まれた粉ミルクが中国へ向けて発送されるのを待っている」という現実を報じたのだった。但し、この7 newsによる秘密倉庫への突撃取材はメディアとして最初ではなく、大手テレビ局「Nine Network」の著名番組『A Current Affair(時事問題)』が8月13日付で同局のニュースサービス部門「Nine News (9 News)」が作成した『粉ミルク狂乱(Baby formula frenzy)』と題する特集を放映していた。
『粉ミルク狂乱』は9 Newsの取材班がメルボルンに住むある中国人家庭に焦点を定め、丸一日彼らの生活を隠し撮りして、“祖孫三代(親、子、孫の三世代)”のグループが粉ミルクを爆買いする様子を記録したものだった。彼らのグループはスーパーマーケットの粉ミルク売場で粉ミルク缶を購入制限の数量まで店舗の買い物かごに入れてはレジへ向かい、レジで精算を終えたら商品を外で待つ家族に渡しては粉ミルク売場へ戻ることを繰り返した。こうして彼らのグループが何度か売り場とレジを往復した結果、商品棚は空っぽとなり粉ミルクは影も形も無くなった。彼らの自宅の裏庭にある倉庫には粉ミルク缶が山積みとなっていた。
この特集が放映されるとオーストラリア国民の怒りが爆発し、「中国人による“代購”は不道徳でけしからん」とする世論が沸騰したのだった。この沸騰した世論の後押しを受けて報じられたのが7 News取材班による『中国向け粉ミルクの秘密倉庫を摘発』と題するニュースだった。
オーストラリアの粉ミルクが高品質としてもてはやされて、中国で極めて高い需要があるのはなぜなのか。それは中国国民が自国産の粉ミルクに不信感を持っているからに他ならない。中国では2008年9月に「メラミン混入粉ミルク事件」<注>が公表されて表沙汰になった。粉ミルクを飲んでメラミンを摂取したことにより5万人以上の乳幼児が腎臓結石を発症し、2008年9月21日までに死者4人が確認された。この事件の主役は粉ミルク大手の“三鹿集団”であったが、その後の調査で中国国内のその他粉ミルクメーカーの製品にもメラミンが混入されていたことが判明したことで、中国国民の国産粉ミルクに対する不信感はぬぐい難いものとなり、高品質で安全性が高いと考えられる外国産粉ミルクに対する需要が急騰した。
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