官が絶対的な力を誇る中国でも、死に物狂いになった弱者が逆らうことがある(写真はイメージ)

 江蘇省中部に位置する“揚州市”は、人口約500万人の中都市であり、市街地は2500年の歴史を誇る文化都市でもある。揚州市は中国共産党の元総書記である江沢民の出身地としても知られているが、日本では創業者の祖父が中国の揚州出身であることにちなんで命名されたラーメンチェーンの「揚州商人」でなじみ深い。

 

 10月15日の午前7時30分頃、揚州市“広陵区”の“杭集鎮”に所在する“中心広場(センター広場)”付近で建物の強制撤去が行われ、撤去作業者側と当該建物の所有者である男性との間で衝突が発生した。撤去作業者側の理不尽な対応に怒った男性は妻の車に飛び乗ると、車を猛スピードで走らせて撤去作業中の作業員たちに衝突させ、さらに車を後退させた上で念を押すかのように再度車を作業員たちに衝突させた。この2度の衝突事故によって2人が死亡、8人が重軽傷を負った。所有者の男性は作業員たちに殴られた後に、駆け付けた公安局の警官によって逮捕された。中国のメディアが報じた事件の概要は以下の通り。

 

【1】事件が発生した杭集鎮は、揚州市“生態科技新城(生態科学技術ニュータウン)”の管轄下にある主要な工業鎮で、歯ブラシの生産で名高く、5000軒近い商店が軒を連ねている。強制撤去された建物はその中の1軒で、建物の所有者は地元の杭集鎮出身で49歳の“韋剛(いごう)”であった。彼の家族は妻の“王琴”(49歳)と1人娘の大学生である。強制撤去された建物は、2010年頃にリフォームした200平方メートルの鉄筋コンクリート2階建ての建物で、1階は旅行用品販売の“万瑞達旅游用品有限公司”、2階はホテル用のスリッパを製造する小型工場として使われていたが、土地は韋剛の父親が残した“農村宅基地(農村宅地)”であった。

【2】2017年8月、揚州市生態科技新城の管理事務所は立ち退き公告を公布した。それは、都市建設の必要性から生態科技新城内の建物の一部や附属物を撤去するとし、その範囲は杭集鎮の小運河沿線東側のバラック改造計画の赤線内にある集団所有の土地上にある建物とその付属物となっていて、韋剛の建物はこの撤去を必要とする範囲に含まれていた。本来の計画では、立ち退き期限を2017年8月24日から10月23日までと定めていたので、ほとんどの住宅は居住者が立ち退いて取り壊され、残留しているのは立ち退き料で合意に達していない数軒の住宅だけだった。2018年7月、上述の建物の一部や附属物の撤去を担当する杭集鎮の“防汛防旱指揮部(洪水防止・旱魃防止指揮部)”は小運河沿いにある違法建築物の全面的撤去を行う旨の通知を出したが、その中には韋剛の建物を含む8軒の住宅が含まれていた。