胡兆森から受け継いだ「ほら吹き」能力は、あらゆる場所でいかんなく発揮された。清華大学の張某教授が“微博(ブログ)”に胡鞍鋼の人となりを示す逸話を書き込んだが、それは次のような内容だった。

【1】毎回、会議が行われると、胡鞍鋼は人より早く発言させるように求め、自分の発言が終わると、「国務院総理(あるいは副総理)と約束があるので、先に失礼する」と言って会議場から立ち去るのが通例である。<毎回のように総理との約束があるはずはない>

【2】2011年4月22日の「清華大学創立100周年記念日」に、元国務院総理で、清華大学の校友であり、かつて清華大学経済管理学院の院長でもあった“朱鎔基”が来校した。この時、大学側は朱鎔基と数人の教授による座談会を開催し、これに出席した胡鞍鋼は得意になって話を続けていた。すると突然、朱鎔基が胡鞍鋼の話を遮(さえぎ)り、「君が胡鞍鋼か。我々にとってはこれが最初の顔合わせだが、どうして世間では君が私の“高参(高級参謀)”だという話が飛び交っているのかな」と尋ねると、問われた胡鞍鋼はうろたえて何も答えられなかった。<胡鞍鋼はそこら中で、自分が朱鎔基の高級参謀だと言いふらして、自分の価値を高めていた>

 ある情報通は胡鞍鋼について次のように述べたが、それはまさに至言である。すなわち、これは“満嘴跑火車的小学畢業生(意味の無い事をしゃべる小学卒業生)”が、清華大学国情研究院の院長となり、中国で最も著名な経済専門家で、最も有名な大学の教授になったということであるが、それは胡鞍鋼にとっては幸運であると同時に、中国社会全体にとっては大きな悲しみである。

問題となった研究結果

 前置きが長くなったが、本題に入る。2017年6月、胡鞍鋼は「中国が米国を上回った」とする研究成果を発表した。その内容は、中国は2013年に経済力、2015年に科学技術力、2012年に総合国力で、それぞれ米国を上回り、2016年にはこれら3分野で中国の力が米国のそれぞれ1.15倍、1.31倍、1.36倍となり、世界一となったというのである。また、別の研究報告の中で胡鞍鋼は、「中国は2010年に世界最大の製造国家となり、2013年に世界最大の貨物輸出入国家となり、2014年に世界最大の経済体制となった」とも述べていた。

 御用学者である胡鞍鋼が盛んに中国の国力が米国を上回り世界一となったと宣伝することは、中国政府にとっては何ら支障があるものではなく、国民の愛国心を発揚する上では大いに歓迎すべきものだった。しかし、2018年3月以降に米国と中国間の貿易摩擦が激しさを増し、遂には6月に追加関税政策が発表となり、7月には第1弾の追加関税が実施されるに及ぶと、従来の「我が国はすごい」、「中国が最大の勝利者である」とか、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げた「中国製造2025」といった国粋主義に根差した論理は根拠のないものであることが中国国民に知れ渡ることになった。

 そうした状況を背景に清華大学の校友たちによって提起されたのが、御用学者の胡鞍鋼が発表した「中国は全面的に米国を超えた」とするでたらめな研究結果に対する批判であり、学長に対する胡鞍鋼の解雇を求める声明書であったのだ。

次ページ 注目を集めた校友たちの声明文