
日本の大学や企業の中国関連研究者に、現代中国の経済学者の名前を挙げて下さいと言うと、必ず名前が上がるのが“胡鞍鋼(こあんこう)”である。日本語に翻訳された彼の著作は多数あるが、最も新しいのは2018年9月21日に日本僑報社から発行された共著の『2050年の中国―習近平政権が描く超大国100年の設計図』である。
日本僑報社が2017年11月15日に胡鞍鋼に関するプレスリリースを行った内容の要約文は次のようになっていた。
表題:習近平政権ブレーンの胡鞍鋼教授が来日、「十九大」での習主席の理念・政策を紹介
日本僑報社の著者である清華大学国情研究センター主任、同大公共管理学院教授の胡鞍鋼氏が、11月7日午後3時から衆議院第二議員会館で「十九大」(中国共産党第十九回全国代表大会)で示された習近平国家主席の理念、政策などについて講演を行った。
筆者も中国関連の講演会やセミナーで胡鞍鋼の講演を何度か聞いた記憶がある。彼は「習近平政権のブレーン」という触れ込みだが、それは腰巾着の御用学者ということで、かつて政治家、文学者、歴史学者と多才でありながら、中国共産党に迎合するために自己の研究成果を否定した“郭沫若”(1892年~1978年)のような風見鶏的な人物に思えた。日本の落語家で立川流家元の“立川談志”(1936年~2011年)という名人がいたが、彼は独善的な物言いで、毒舌を振るう一家言だったが、何とも言えない魅力があり、本職の落語も名人の域に達していた。あくまで個人的な見解だが、筆者には胡鞍鋼が「がらっぱち」で品の無い中国版の立川談志のように見えた。しかし、これは立川談志師匠に対して非常に失礼な話だろう。端的に言えば、胡鞍鋼という人物は、俺様はという自己顕示欲が強く、生意気で胡散臭い人物に筆者には思えたのだった。
ところで、2018年8月2日に中国のネット上に“清華大学”の“校友(卒業生)”27人によって提起された清華大学“校長(学長)”宛ての声明書が書き込まれた。それは清華大学の“国情研究院”院長の胡鞍鋼を厳しく叱責したもので、胡鞍鋼は「顧みることなく常識を捨て、学術を無用と見なして」、『中国の綜合国力はすでに米国を超えた』というほら吹き論文を提出したが、それは「上は国家の政策決定を誤らせ、下は庶民を惑わせる」ものであると断言し、直ちに胡鞍鋼から清華大学国情研究院院長と教授の職位を剥奪するよう要求したのだった。この声明書には8月3日までに1000人以上の“校友”が賛同して連署したという。
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