さて、10月3日に山東省の莱蕪医院で小児科医の李宝華が患者の父親に殺害された事件は全国の医師たちに大きな衝撃を与えた。10月4日、“中国医師協会”と“山東省医師協会”は同事件に関して共同声明を発表したが、その概要は以下の通り。

【1】10月3日に李宝華医師が不幸にも殺害されたことは、幾千幾万の医師たちの心を突き動かした。10月4日、山東省医師協会副会長兼秘書長の“宋良貞”は中国医師協会と山東省医師協会を代表して莱蕪医院へ赴き、殺害された李宝華医師の家族を弔問すると同時に両協会からの弔慰金を送った。

【2】事件の発生後、中国医師協会と山東省医師協会は事態を重く見て、直ちに医師の合法的権利を擁護するよう要求し、共同で次のような声明を発表した。

(一)法にのっとり凶悪犯を厳正かつ迅速に処罰し、医療スタッフの正当かつ合法的な権利を確実に擁護するよう要求する。

(二)社会各界に心を一にした協力を強く呼びかけ、共に医院の正常な医療秩序を守り、医療スタッフの身の安全を確実に保障するよう要求する。

医療騒動に刑法の罰則を適用

 この声明の背景となっているのは、中国政府による医療騒動抑制のための施策である。2013年以来、中国政府は医療関連の犯罪行為を断固取り締まる方向に舵を切り、種々の規定を制定して来たが、掛け声だけが先行して、期待した成果は上がらなかった。こうした状況を打破するために打ち出されたのが、2015年8月29日に第12期全国人民代表大会常務委員会第16回会議で可決成立した『刑法修正案(九)』<注2>の第31項である。

<注2>刑法修正案(九)は2015年11月1日発効。

 この第31項には、現行の刑法121条1項の修正事項として、「“聚衆擾乱公共、交通秩序罪(大衆を集めて公共・交通秩序をかき乱す罪)”」を「“聚衆擾乱社会秩序罪(大衆を集めて社会秩序をかき乱す罪)”」に変更し、その内容を「労働、生産、営業と教育、科学研究、医療の正常な行為を妨げ、重大な損失を生じさせる」ものと記載されている。この修正によって、医療行為を妨害して損害を与える医療騒動に刑法の罰則が適用されることになり、主犯は3年以上7年以下の懲役刑に処せられることになった。

 さらに、2016年3月30日には、中国政府の“国家衛生和計画生育委員会(国家衛生・計画出産委員会)”、“中央社会治安総合治理委員会”、“公安部”、“司法部”の4部・委員会が連名で『医療秩序の擁護をさらに確実に行うための活動に関する通知』を発表した。

 同通知は、公安機関に対して「医療に関わる違法犯罪に対して終始厳しく取り締まる姿勢を保持し、医師への暴力傷害行為や医療騒動などの違法犯罪行為に対して法にのっとり果断な処置を取り、現場で事実関係を調査し、厳しく取り締まること」を要求している。特に、医療スタッフに対する暴力傷害行為や医療スタッフの自由を違法に制限する犯罪行為に対しては、これを果敢に制止することを要求している。