この書き込みに反応して連絡を入れたのが杜某で、陳文輝は杜某から1件当たり0.5元(約8円)で1800件、すなわち1800人分の大学受験志願者情報を買い入れた。これで準備を整えた陳文輝は“陳福地”、“鄭金鋒”、“黄進春”などを雇い入れ、教育局や財務局の職員を装って大学合格者に電話を掛け、奨学金を支給するとして詐欺を行ったのだった。彼らは杜某から買い入れた大学受験志願者リストから選んだ受験生に電話をかけ、事前に彼らが大学に合格したことを確認した上で、改めて大学合格者に電話をかけ、市政府職員を装って詐欺を行っていたのだった。

 8月26日午後、中国政府“公安部”は、「8月19日に犯罪容疑者の陳文輝、陳福地、鄭金鋒、“熊超”、“鄭賢聡”、黄進春は教育局幹部を装い、奨学金を支給するという名目で山東省臨沂市の学生“徐玉玉”から9900元を詐取した。容疑者の陳福地、鄭金鋒、黄進春はすでに逮捕済みであり、容疑者の陳文輝、熊超、鄭賢聡の3人は逃亡中である」と発表した。それから間もなくして容疑者の熊超は逮捕され、逃亡中の容疑者は2人になった。彼ら2人には公安部の“A級通緝令(A級指名手配)”が出され、1人当たり5万元(約78万円)の懸賞金が掛けられた。28日、公安部は逃亡していた鄭賢聡が自首したことで6人の容疑者全員が逮捕されたと発表し、事件は発生から10日間という短期間で決着した。

検挙率3%以下の暗澹

 徐玉玉が死亡した翌日の8月22日には“山東理工大学”2年生の“宋振寧”が、電気通信詐欺により銀行口座から大学の学費・生活費に充てる予定の1996元(約3万1000円)を騙し取られた。宋振寧は1996元を詐取されたことを両親に話したが、両親は起きたことは仕方ないと彼を責めることはなかった。翌23日の朝、なかなか起きて来ない息子を案じた母親が息子部屋で見たのはソファーに横たわって死亡している息子の姿だった。死因は突発性心停止(SCA)であった。

 徐玉玉と宋振寧はいずれもカネを詐取されたことに強い自責の念を覚え、やり場のない怒りにさいなまれた末に突発性の死を迎えたものと思われる。なお、宋振寧事件はその後の捜査で電気通信詐欺の容疑者14人が逮捕された。

 8月30日付の北京紙「新京報」によれば、2015年に全国で発生した電気通信詐欺の件数は59.9万件に達し、その被害総額は222億元(約3440億円)に上ったが、その検挙率は3%にも達していないという。浙江省を例に挙げると、2015年に浙江省公安局が届けを受理した電気通信詐欺事件は10.7万件以上で、被害総額は15.4億元(約239億円)に上っている。

 日本の振り込め詐欺は主として高齢者の老後資金を対象としているが、中国では大学生にまで触手を伸ばし、わずかな学費まで詐取する事例が多発している。被害者の学生が2人も突発性の死を遂げたことを考えると、電気通信詐欺は人非人の仕業と言える。