自転車で息せき切って中国建設銀行のATMに到着した徐玉玉は、男の携帯番号に電話をかけ、電話口に出た男の指示に従ってATMを何回か操作したが、上手く行かなかった。すると、男は徐玉玉に「何か銀行のキャッシュカードを持っていないか」と聞いて来た。この時、徐玉玉は父親が9300元を預け入れてくれた自分の口座のキャッシュカードを持っていたが、口座の残高は1万元(約15万5000円)であった。疑うことを知らない徐玉玉がこの事を電話の向こうにいる男に告げると、男は「そのキャッシュカードは発行されたばかりで、まだ有効になっていないから、先ずそのカードで9900元を引出してカードを有効にし、それからその9900元を自分が指定する口座へ振り込んでくれれば、30分以内に奨学金の2600元を加えた1万2500元(約19万4000円)を貴方の口座へ振り込む」と述べたのだった。

「電源が入っていません」

 誰が考えても、銀行の口座に奨学金を振り込むのに、その口座の残高を一時的に指定口座へ移し、その金額に奨学金を加えた総額を元の口座へ振り込むなどという奇怪な話がまかり通るはずがない。しかし、相手の男を教育局の幹部と思い込んでいる徐玉玉は男の指示に従い、ATMからキャッシュカードで引き出した9900元を男が指定した銀行口座へ振り込んだ。指定口座への振り込みを終えて、これで奨学金は問題ないと胸をなでおろした徐玉玉は、しばらくして不吉な胸騒ぎを覚えて我に返った。男の言うままに9900元を指定口座に振り込んだが、本当に奨学金の2600元を加えた金額が自分の口座に振り込まれるだろうか。心配になった徐玉玉は男の携帯番号に電話をかけたが、その電話はすでに電源が切られていて、「この電話は電源が入っていません」と言う録音された女性の声がむなしく繰り返されるだけだった。

 そぼ降る雨の中、雨合羽を着た徐玉玉はATMの前で自分の口座に1万2500元が振り込まれるのを期待して待ったが、キャッシュカードで口座を何度確かめても残金は100元で変わらなかった。30分が経過する頃には、いつの間にか勢いを増した雨の中で、徐玉玉はまんまと男に騙されたことを自覚し、口惜しさと悲しさが入り混じった涙を流してむせび泣いた。9900元が詐取されたと判断した徐玉玉は、大雨を突いて自転車で自宅へ戻ったが、李自雲の顔を見て、「お母さん、騙された、学費は全部無くなった」と言い終わると同時に泣き崩れた。この言葉で何が起こったかを理解した李自雲は徐玉玉を責めることなく、「おカネを騙し取られたことで良い教訓を得たじゃないか。学費はまた準備するから、我が家にできないことはないから」と徐玉玉を慰めた。