遺体発見後、公安局員と救援隊員は趙培晨の遺体を担架に乗せて樹林の中から運び出した。劉暁光は、「趙培晨の遺体を発見したのは、雨が最も激しく降っていた時だった。長年の捜索で、道に迷ったり、転落死した人を見て来たが、このような事件に巻き込まれた遺体は初めてで、心が重く感じられた」と述べた。

 事件の全貌が公表されると、インターネット上に重要情報の書き込みがあった。それは次のような内容だった。すなわち、事件発生の2日前に“林”姓の女性が虹橋鎮の“紅杏路”で順風車の配車を依頼したところ、楽清市“翁垟鎮”へ向かう順風車が到着した。彼女が車に乗り込みと、運転手は口実を設けて予約を取り消し、本来の道から脇道にそれた。異常を察知した女性は、車のドアを開けて飛び降りると必死で逃げた。運転手は彼女を数百メートル追いかけて来たが、彼女が「まだ追いかけてくるなら、警察に通報する」と叫ぶと、運転手は元来た道を引きかえって行った。彼女は当該順風車のナンバープレートを写真に撮っていたので、微信を通じて滴滴出行宛に状況説明を行うと同時に、ナンバープレートの写真も送付していた。その2日後に発生したのが趙培晨の事件だった。

 その後に判明したところでは、この林姓の女性を乗せた順風車の運転手は逮捕された鍾元であった。林姓の女性から情報提供があったにもかかわらず、滴滴出行はこれを放置し、鍾元を野放しにしたことが、趙培晨の殺害につながったことは隠しようのない事実である。。中国のネット上には、目元を隠した趙培晨の写真が何枚か掲載されているが、そこに写っているのは映画やテレビに出て来そうな可愛い美人で、楚々とした風情は際立って魅力的である。このような鄙(ひな)には稀な美人が強姦されてから殺害されたと思うと、犯人に憤りを禁じ得ないし、“掌上明珠(最愛の娘)”を失った両親の落胆ぶりが想像できる。

 ところで、順風車の運転手による殺人事件は、2018年5月5日にも河南省“鄭州市”で発生していた。殺害されたのは“祥鵬航空”の“空姐(スチュワーデス)”で、21歳の“李明珠”であった。彼女は勤務を終えて鄭州空港から鉄道の鄭州駅へ移動する際に順風車を利用し、順風車の運転手によって強姦された後に殺害されたのだった。この時、滴滴出行は100万元(約1650万円)の懸賞金を出して、犯人の“李振華”(27歳)の手掛かりを追及したが、5月13日に李振華は遺体となって市内の川に浮いているのが発見された。自殺したものと考えられている。

サービス停止後、わずか1週間後に再開

 事態を重く見た滴滴出行は、5月12日に順風車の配車サービスを停止し、22時から翌朝6時までは順風車の営業を停止するなどの改善策を策定し、わずか1週間後の5月19日からサービスを再開した。それから98日目の8月24日に順風車の運転手による強姦殺人事件が再発したのである。一般の免許所有者が登録するだけで運転手となれる相乗りサービスの順風車は、配車を行う滴滴出行が運転手の身元保証も含めて乗客の安全を保障するから成り立つのであって、強姦殺人を犯すような性的異常者を野放しにしていたのであれば、順風車を利用する乗客が滴滴出行に求める「信用」と「安全」を喪失するのは当然のことである。

次ページ 50件の性暴力と滴滴の業務改革