運転手が利用客を殺害した滴滴出行のアプリ(写真:Imaginechina/アフロ)
運転手が利用客を殺害した滴滴出行のアプリ(写真:Imaginechina/アフロ)

 2012年6月、“北京小桔科技有限公司”が開発した配車アプリを運用したタクシーの配車サービスを北京市で始めた“滴滴出行”は、当初は北京市内だけに限定していたタクシー予約サービスを順次全国各地へ拡大している。これと並行して、滴滴出行は、配車アプリを通じた“滴滴順風車(相乗り車)”(以下「順風車」)、大中都市における“礼橙専車(中高級商務専用車)”、さらには“滴滴外売(料理の宅配)”なども展開している。ちなみに、“滴滴出租車(滴滴タクシー)は、全国380カ所以上の都市に180万人の運転手を抱えている。

 滴滴出行の発展を見越した米国アップル社は、2016年5月に滴滴出行に対して10億ドルの投資を行った。また、同年8月に滴滴出行は米国配車サービス大手のウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies Inc.)が中国に設立した「Uber中国」を株式交換で傘下に収めると同時に、ウーバーに対し10億ドルを投資し、ウーバーの株主(比率1.47%)となった。滴滴出行は世界進出も視野に入れており、メキシコ、香港、日本、ラテンアメリカに照準を定めている。日本ではソフトバンクと提携し、今秋にも大阪で配車サービスの試験運用を予定している。

 さて、滴滴出行が運営している順風車は、“順路(道すがら)”に“併車(相乗り)”する車という意味で、“同路人(同じ所へ行く人)”が1台の車に同乗することで、交通混雑を緩和し、環境保護にも貢献するというシェアリング・エコノミーを標榜するものである。順風車を利用したい人は順風車のアプリ上の地図で自分の場所をクリックすると、その周辺にいる順風車の運転手に指示が行き、その場所で待っていると、順風車が到着して目的地まで運んでくれる。但し、目的地に向かう途上でアプリ上に他の乗客からの利用希望が入れば相乗りとなる。この際、他の乗客の目的地によっては迂回して、先の乗客の目的地到着が遅れることも有り得る。

 なお、順風車の運転手として登録するには、4ドアで、価格が8万元(約132万円)以上、車齢が6年以内の乗用車を所有し、1年以上の運転歴を持ち、スマートフォン(以下「スマホ」)を所有していることが基本条件となっている。単純化して言うと、その条件を満たしている人が、自分の氏名、身分証明書番号、運転免許証番号、スマホ番号などを順風車アプリに登録し、自分の顔写真を添付すれば、滴滴出行の審査を経て、誰でも順風車の運転手になれる。この安易さが順風車の運転手による犯罪を誘発する原因となっているのである。

 2018年8月24日の13時15分頃、浙江省“温州市”の管轄下にある“楽清市”の“虹橋鎮”に住む19歳の“趙培晨(ちょうばいしん)”は、友人の誕生日を祝うために、自宅前からの配車を依頼した順風車に乗った。趙培晨を見送った母親は、彼女が自宅から100mほど離れた場所で黒色の乗用車に乗り込むのを見届けてから家に戻った。友人の家は温州市に属する“永嘉県”にあるが、虹橋鎮からは60km前後の距離なので1時間位で到着し、趙培晨は友人と落ち合った上で一緒に温州市内へ向かう予定だった。

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