御用学者からの「出産基金」提言に国民からは強烈な反発の声があがった(写真:Shutterstock)
御用学者からの「出産基金」提言に国民からは強烈な反発の声があがった(写真:Shutterstock)

 江蘇省党委員会の機関紙「新華日報」は8月14日付の第13面「思想週刊・“智庫(シンクタンク)”」欄に“南京大学長江産業経済研究院”の学者である“劉志彪”と“張曄(ちょうよう)”(女性)が連名で執筆した『“提高生育率(出生率向上)”:新時代における中国人口発展の新任務』と題する文章を掲載した。

 中国では中国共産党と中国政府が何か新しい事を始めようとすると、地方の官製メディアを通じて学者に意見を発表させ、それに対する世論の反応を見て、問題なしと判断すれば、一気呵成に新たなお触れを公布するのが常である。当該文章がネットを通じて中国全土に流布されると、中国世論は激しく反発し、ネット上には怒りを爆発させた庶民の書き込みが溢れた。どうして中国世論は強烈な反発を示したのか。当該文章の概要は以下の通り。

【1】中国政府“国家統計局”が今年初めに発表した2017年の出生人口は1723万人で、2016年より63万人減少し、“全面二孩政策(全面二人っ子政策)”<注1>がもたらした出生人口のピークはすでに過ぎた可能性が高い<注2>。2018年上半期の新生児数は前年同期比で約15~20%減少していることから考えると、2018年の出生人口は2017年より大幅に減少することが予想される。さらに悪いことには、2010年に実施された“人口普査(国勢調査)”のデータには、今後10年以内に我が国の出産適齢期の女性は約40%減少するとあった。ここ2~3年以内に、我が国の第3次人口ピーク期(1981~1990年)に生まれた出産適齢女性は徐々に出産適齢期を過ぎるし、全面二人っ子政策の実施がもたらした累積効果も消失するに従い、我が国の人口出生率は必然的に断崖からの急降下に直面することになる。「少子化」後の結果は非常に深刻なので、出生率の向上は新時代における中国人口発展の新たな任務である。

<注1>1980年代初頭から継続してきた“独生子女政策(一人っ子政策)”から転換して1組の夫婦に子供を2人まで出産可能とする政策で、2016年1月1日から実施された。
<注2>2017年の出生人口減少の詳細は、2018年2月16日付の本リポート『中国「2人目出産解禁」2年目に出生人口が減少』参照。

【2】我々は、我が国の出産奨励措置を短期、中期、長期の対応策に分けることが出来ると考える。その要点は下記の通り。

(1)短期:
 出産を全面的に自由化し、幼児教育産業と公共託児サービスを優先的に発展させ、国家の義務教育体制を強化する。我が国の女性の出産ピークは25~30歳である。人口構造から見ると、1975~1985年に出生した人口の出産意欲は比較的強いが、すでに出産適齢期は過ぎており、二人っ子政策がもたらした累積効果はすでに消失している。90年代に出生した人口は相対的に減少しており、出産観念が変化したことも加わり、この年代の人々に出産の重責を担わせるのは現実的ではない。但し、1986~1990年の反動的なベビーブームに出生した人口はその総数が1.2億人に達し、比較的に出産意欲が強いだけでなく、まだ2年前後は出産適齢期にある。この時期を逃すことなく、直ちに出産を全面的に自由化すべきである。
(2)中期:
 “生育基金制度(出産基金制度)”を創設し、蓄えた社会扶養費を適切に利用し、出費が比較的小さい経済手段で家庭の出産を奨励する。出産休暇の延長と育児休暇制度の確立。出産奨励の住宅政策を制定する、等々。たとえば、社会扶養費の方面では、蓄えた社会扶養費を出産補助金に用いることにより財政圧力を軽減することもできる。さらに、40歳以下の国⺠からは男⼥を問わず、 毎年給与から⼀定⽐率の“⽣育基⾦(出産基⾦)”を徴収し、個人口座へ繰り入れることを規定すべきである。
 家庭が第二子およびそれ以上の子供を出産した時には、出産基金に申請して積み立てた出生基金を取り出すと同時に出産補助金を受け取ることができ、女性およびその家庭が出産時期に労働を中断したことによる短期的な収入損失を補償することに用いる。もし、国民が第二子を産まない場合は、口座に積み立てた資金を退職時に取り出すことができる。出産基金は“現収現付制(賦課方式)”を採用する。すなわち、個人が継続的に納付し、未だ取り出していない出産基金は、政府がその他家庭の出産補助金として支出することが可能で、不足部分は国家財政で補填する。
(3)長期:
 上述した政策の効果が漸減するのを待って、財税政策の調節作用を十分に発揮すべきであり、子供が多い家庭と女性が再就職する企業に対して税の優遇を与えると共に子供が多い家庭には財政補てんを与える。

【3】最後に、出産政策は地域差を十分に考慮すべきである。

 都市化が急速に進むにつれ、人口は“中心都市(大都市)”へ移転し、中小都市の若年人口は大量に流出する。我が国の東北地区および一部の計画出産が厳格に行われている地区では、人口の老齢化がとりわけ深刻である。それとは裏腹に、東部の“一線都市(主要な大都市)”では依然として人と土地が緊張状態にあり、巨大な人口圧力に直面している。中央政府は出産政策を奨励するための基本構造と原則を制定し、各地方政府は地元の出生率および老齢化の程度に応じて地方の人口政策を制定することができるようにする。このように人口発展の地域均衡を促進するだけでなく、各地の試験結果を総括して、次の大規模実施のために基礎を固めることが肝要である。