九寨溝を襲った大地震で道路も崩壊、世界自然遺産の美しさは取り戻せるか(写真:AP/アフロ)
九寨溝を襲った大地震で道路も崩壊、世界自然遺産の美しさは取り戻せるか(写真:AP/アフロ)

 “美不勝収(美しい物が多すぎて見切れない), 人間仙境(この世の別天地), 世外桃源(俗世を離れたユートピア)”、春は“山花爛漫(山の花爛漫と咲き乱れ)”、夏は“蒼碧欲滴(深緑滴らんと欲し)”、秋は“五彩斑斕(五彩綾なして美しく)”、冬は“詩情画意(詩歌や絵画の境地)”

観光客500万人超、観光収入8.05億元

 これはユネスコの世界自然遺産に登録されている九寨溝を中国の成語で形容したものであり、言葉に尽くせぬほど美しい九寨溝の風景を物語っている。九寨溝の名は“溝(川筋)”に9か所のチベット族の“寨(村)”があったことに由来するという。九寨溝は何分にも辺境の地にあり、清の“康熙帝(在位:1661~1722年)”時代にようやく清の管轄下に組み入れられたが、清の兵士が立ち入ることもなく放置され、人々に知られることはなかった。

 中華人民共和国が成立した1949年以降も九寨溝は外界と隔絶されたまま時を刻んだが、1960年代に中央政府管轄の“旅游区(観光区)”となり、1980年代になってようやく観光地として一般へ開放されたのである。世界自然遺産に登録された1992年以降は中国国民の富裕化と相まって九寨溝を訪れる観光客は年々増大し続けて今日に至っている。2016年に九寨溝を訪れた中国内外の観光客は500万人を突破し、観光収入は8.05億元(約129億円)に達した。

 九寨溝へ観光客を引き寄せるのはこの世の物とは思えないほど美しい景色である。九寨溝は多数の湖と滝で構成されているが、そこを流れる水は石灰分(炭酸カルシウム)を含み、種々の条件により九寨溝特有の“翠緑色(エメラルドグリーン)”を呈し、人々をえも言われぬ陶酔の世界へと誘い込む。それは桃源郷であり、ユートピアであり、世俗の塵埃を逃れた境地に浸ることができる別世界である。九寨溝は“日則溝”、“樹正溝”、“則査洼溝”と呼ばれる3つの川筋に分かれており、各川筋に合計6つの景勝地区が点在する。九寨溝はどこを見ても美しいが、人気が高い“珍珠灘瀑布”、“諾日朗瀑布”、“火花海”、“五彩池”、“鏡池”、“長池”、“五花梅”などの景色は人々を魅了して止まない。

 “九寨溝(きゅうさいこう)”は、四川省北部の“阿壩藏族羌族自治州(アバ・チベット族チャン族自治州)”に属する“九寨溝県”の“漳扎鎮(しょうさつちん)”にある。漳扎鎮は九寨溝県の“県城(県庁所在地)”から西へ46kmの距離にある。海抜は県城が1400mなのに対して漳扎鎮は2089mであり、九寨溝は2000m以上の高地にある。

 四川省の省都“成都市”から九寨溝までの距離は約410km、自動車で行けば約6~7時間を要する。2003年9月に隣接する“松潘県”に「九寨黄龍空港」が開港したことにより九寨溝への所要時間は大幅に短縮されたが、同空港からから九寨溝までは88kmあり、バスで1.5時間の道程である。また、九寨溝はその面積が広いことから、車道と遊歩道が整備されている。外部車両の乗り入れは禁止されており、観光客は天然ガスを燃料とする“緑色環保観光車(グリーン環境保護観光バス)”での移動が必要となる。

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