パリの街並みを真似た浙江省・天都城は有名なゴーストタウンの1つ(写真:ロイター/アフロ)
パリの街並みを真似た浙江省・天都城は有名なゴーストタウンの1つ(写真:ロイター/アフロ)

 広西チワン族自治区の中部に位置する“来賓市”は、日本の長野県(1万3562km2)とほぼ同じ1万3411km2の面積を有し、218万人(2015年末)の常住人口を擁する。その来賓市に属する“忻城(きんじょう)県”は、日本の佐賀県(2441km2)より若干大きい2541km2の面積に32万人(2015年末の常住人口)が暮らしている。

住宅団地が放牧場に?

 さて、中国のポータルサイト“網易(NetEase)”は7月24日付で「広西チワン族自治区で100棟余りの“別墅(一戸建て住宅)”が荒廃し、村民の牛放牧場になっている」と題する記者の探訪記事を報じた。記事が報じたのは忻城県の“城関鎮”にある一戸建ての住宅団地の現状である。記事の概要は以下の通り。

【1】2011年5月、忻城県に所在する“隆達投資有限公司”(以下「隆達公司」)は、総投資額3億5000万元(約54億円)で近代的な一戸建て住宅団地を建設する“山水福城項目(山水ラッキータウンプロジェクト)”(以下「山水福城」)を立ち上げた。隆達公司は大々的に広告を打って住宅の販売を行い、2015年5月の住宅引き渡し予定を条件として、2013年から2014年にかけてほぼ全ての住宅を販売した。

【2】ところが、住宅引き渡し予定時期の2015年5月が近づいても、建屋の建設は遅々として進まず、竣工の目途が立たなかった。住宅を購入した買主は不動産販売所に押しかけて住宅の引き渡し時期を問い合わせたが、一向に要領を得ず、ビルの完成時期は何度も先延ばしとなった。そのうちに、不動産販売所は門を閉ざし、隆達公司も買主を避けるようになった。その後、関係部門が調査を行った結果、山水福城では住宅の重複販売が行われていたことが判明した。それは、隆達公司の資金繰り悪化によるものであり、そればかりか建屋の大部分や一部の土地は担保会社の抵当に入っていたのだった。

【3】2016年5月15日、山水福城の正門前には住宅の買主が100人近く集まり、横断幕を掲げて住宅の引き渡しを要求したが、そこには要求を突き付けるべき相手はいなかった。それは正に「のれんに腕押し」であり、「隔靴掻痒」の感を否めない、むなしく切ない光景だった。彼らはなけなしのカネを隆達公司に支払った挙句、完成した住宅を引き渡してもらえないばかりか、住宅の重複販売や抵当入りという厄介な問題にも直面しているのである。

【4】それでは、肝心の山水福城の現状はどうなっているのか。山水福城の住宅団地には4階建ての一戸建て住宅が100棟余りあり、すでに建屋と外壁の工事は完成していた。しかし、これらの住宅団地は誰にも管理されぬまま放置され、人が自由に出入りできる状態となっていたため、“流浪漢(ホームレス)”の住処と化し、屋内にはごみが堆積し、ホームレスの物と思われる衣類が散らばっていた。また、住宅の横を流れる水路はよどみ、汚染により茶色く濁っていた。住宅団地の周囲には雑草が生い茂っているが、その雑草を目当てに、付近の村民が住宅団地内で牛の放牧を行っていた。山水福城は風水の“宝地(地相が良い土地)”に建設されたものだが、今や一戸建て住宅団地は“鬼城(ゴーストタウン)”と化し、買主たちが夢見た住宅は見る影もない無残な姿を晒している。

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