21.5万人もの児童が欠陥ワクチンを接種されたことに世論は怒りで沸騰した。
21.5万人もの児童が欠陥ワクチンを接種されたことに世論は怒りで沸騰した。

 事件の発端は、7月15日に“国家薬品監督管理局”が出した通告だった。それには次のように書かれていた。すなわち、吉林省“長春市”を本拠とするワクチンメーカー“長春長生生物科技有限責任公司”(以下「長春長生」)は、フリーズドライの“人用狂犬病疫苗(人用狂犬病ワクチン)”生産過程に記録改ざんなどの“薬品生産質量管理規範(薬品生産品質管理基準)”に対する厳重な違反行為が存在し、長春生物に対して狂犬病ワクチンの生産停止を命じた。

 翌7月16日、親会社の“長生生物科技股份有限公司”(以下「長生生物」)は、子会社の長春長生は市場にある有効期限内の人用狂犬病ワクチンを全て回収したと発表した。また、7月17日には、指摘を受けた人用狂犬病ワクチンは市場へ出荷していないし、市場にある人用狂犬病ワクチンは国家基準に適合していると声明を出した。

 7月19日、長生生物は声明を発表して、子会社の長春長生が“百白破疫苗(三種混合ワクチン)”<注1>の生産・販売に関して、“吉林省食品薬品監督管理局”により86万元(約1420万円)の違法所得を没収されると同時に、違法⽣産薬品価額の3倍の罰金、258万元(約4260万円)を科せられ、その総額は344万元(約5680万円)に達したと表明した。

<注1>“百白破疫苗”とは、“百日咳、白喉(ジフテリア)、破傷風”の混合ワクチンを意味し、日本では「三種混合ワクチン」と呼ばれる。

 7⽉20⽇、吉林省⾷品薬品監督管理局は上述の罰金を含む⾏政処罰を公⽰したが、そこには以下の記述が含まれていた。

(1)長春長生が生産した三種混合ワクチンは“中国食品薬品検定研究院”によって検定された結果、薬効項目が基準に符合せず、品質不良の“劣薬”と判定された。
(2)検査を経て、長春長生の生産ロットNo.201605014-01のワクチン合計25万2600本が全て山東省“疾病予防控制中心(疾病予防コントロールセンター)”(以下「疾病予防センター」)へ販売され、山東省の“済南市”を始めとする8市へ流入し、21万5184人の児童に接種されたことが判明した。

過去の事実関係を隠蔽した行政処罰

 ところが、上述した行政処罰の内容は過去の事実関係を隠蔽したものであることが判明したのである。それは以下の事実だった。

 2017年11月3日、中国政府“国家食品薬品監督管理局(現:国家市場監督管理総局)”は公告を発表し、ワクチンメーカー“長春長生生物科技公司”(以下「長春長生」)における製品の抜き取り検査を行ったところ、25万本の三種混合ワクチンが基準不適合であることを発見したと報じた。そればかりか、長春長生では生ワクチン生産記録の改ざんなどの『“薬品生産質量管理規範(薬品生産品質管理基準)”』に対する違反行為が発見されたとも伝えた。

 要するに、長春長生はこれら基準不適合とされた25万本の欠陥ワクチンを廃棄処分とするよう命じられたにもかかわらず、密かに山東省政府傘下の疾病予防センターへ販売し、同センターが省内8市の医院や診療所へ正規品として流通させ、21万5184人の児童が欠陥ワクチンの接種を受けたということである。

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