《その2》
 山東省“日照市”に住む“厲常栄(れいじょうえい)”の娘“萱萱(けんけん)”は、生後8カ月と20日で「パパ、ママ」と話し、1歳の時には上手に歩き、1歳7カ月の時には自分で食事をするほどで、何でもできる賢い娘だった。2015年11月12日、萱萱は“麻顋風疫苗(MMRワクチン)”<注2>と3種混合ワクチンを接種したが、その日の夜から発熱し、3日目にはひきつけが始まった。その後、萱萱は医院のICUに入院して半月の間けいれんを続け、重傷ウイルス性脳炎と診断された。有名な専門医に診てもらった結果はワクチンの異常反応というものだった。地元の医師では手に負えないということで、大きな医院で2年7カ月治療を受けた結果、座ることと這(は)うことはどうにかできるようになったが、歩くことができないばかりか、咀嚼することもできず、ずっと流動食の生活を続けている。

<注2>MMRワクチンとは、麻疹(Measles)、おたふくかぜ(Mumps)、風疹(Rubella)のワクチンを混合したもので、日本では「新3種混合ワクチン」と呼ばれている。

 “残疾(身体障害)”の1級1等に対する国家賠償基準は当時108万元(約1780万円)だったが、交渉の結果ようやく受領した108万元は治療費に消え、萱萱の治療費を捻出する方法はないのが実情である。こうした状況であることをメディアに訴えようとしても、こうしたワクチン事件に対する中国政府の言論統制は厳しさを増しており、記者の多くが報道を尻込みしているのが実態である。

 欠陥ワクチン問題で中国世論が沸騰しているのを尻目に、中国のメディアを主管する“中国共産党中央宣伝部”(略称:“中宣部”)は、7月下旬に国内メディアに対して「ワクチン関連報道停止」の通達を出した。このため、ネット上に掲載されていたワクチン関連のニュースは軒並み削除されたし、国内メディアの大部分はワクチン関連ニュースの報道を差し控えている。敢えてこの禁を犯してワクチン関連のニュースを報じれば、その影響は当該記者だけに止まることなく、記者の家族にまで累が及ぶ可能性があるという。

 国家主席の習近平と国務院総理の李克強が、欠陥ワクチン事件の徹底究明を命じたにもかかわらず、最終的にはメディアに対する報道規制を強化することで、事件の実情およびその原因を隠蔽するのは、中国の常套手段である。その結果として国民の中国共産党と中国政府に対する信頼度はますます低下することになるが、為政者にとっては国民に知られたくない真相が白日の下にさらけ出されるよりも、その被るダメージは軽減されるということなのだろう。

 欠陥ワクチンの接種を受けた児童60万人以上の肉体に悪影響が出ないことを祈る次第だが、こうした事件が発生する度に言論統制により事実の隠蔽を行い、被害者とその家族に重い負担を背負わせ続けるなら、そのツケはいつの日にか大きな反動となって中国全体を揺るがすことになるのではないだろうか。「天網恢恢疎にして漏らさず(悪事を行えば必ず報いがある)」は『老子』の言葉である。

ワクチン事件に対する中国政府の言論統制は厳しさを増している。
ワクチン事件に対する中国政府の言論統制は厳しさを増している。
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