さて、2016年12月23日、湖北省“恩施市”に住む“鄧紅華(とうこうか)”は1歳になったばかりの息子“覃梓衿(たんしきん)”に、隣接する“宜昌市長陽県”にある“枝柘坪衛生院(診療所)”で、“水痘疫苗(水疱瘡ワクチン)”の接種を受けさせた。ワクチンの注射を受けた後に覃梓衿は発熱したが、医師は正常な反応だと言い、鄧紅華も医師の判断を信じたが、3日目になっても高熱は下がらなかった。心配になった鄧紅華は覃梓衿を診療所へ連れて行き、医師に診察を求めたところ、医者は感冒だと診断して、解熱剤を処方した。しかし、4日目に覃梓衿の病状は急激に悪化し、手足は氷のように冷たくなり、ひきつけを起こすようになった。慌てた鄧紅華は車で覃梓衿を医院へ運んで入院させたが、入院後間もなくして覃梓衿は薬石効なく亡くなったのだった。

 生前の覃梓衿は利口で元気な、滅多に病気をしない健康な子供だった。それが水疱瘡ワクチンを接種した後に突然発熱し、わずか4日後には急逝した。その原因は水疱瘡ワクチンの接種以外には考えられない。こう考えた鄧紅華は当局に検死を要求し、死因の徹底追究を要望した。検死報告書には次のように書かれていた。すなわち、覃梓衿の死因は、肺炎と腸炎の併発による急性の呼吸・循環機能不全であり、ワクチン接種とは関係ない。ワクチン接種を受けた時が何かの病気の潜伏期に当たっていたため、ワクチン接種後にその病気が発症したものであり、たまたまワクチン接種と病気発症の時期が重なったに過ぎない。

 検死報告書の内容に納得できなかった鄧紅華は、検死結果の再検討を要請すると表明した。鄧紅華が調べたところによれば、息子の覃梓衿が接種を受けた水疱瘡ワクチンは、渦中の長春長生が生産した製品(ロットNo.201701004)であった。ところが、当局は証拠となるべきロットNo.が同一のワクチンを隠滅して、証拠隠しと考えられる行動に出たのである。さらに、上述したように7月20日過ぎに欠陥ワクチン問題が発生した後には、公安局派出所の警官、医院関係者や政府の役人などが次々と鄧紅華の住居を訪れた。彼らの来訪は慰めの言葉を掛けるとか賠償について協議するのではなく、問題の解決は地元で行うからと、彼女に“上訪(上部機関へ陳情すること)”を禁止する旨の通告を行うためだった。

相次ぐワクチン接種に関わる悲劇

 ワクチン接種に関わる悲劇は枚挙にいとまがないが、典型的な例を2件紹介する。

《その1》
 2014年6月4日に陝西省“宝鶏市鳳県”で生まれた女児の“雷鑫睿(らいしんえい)”は、生後11カ月の時に武漢生物製のA群流行性脳脊髄膜炎のワクチン接種を受け、発病して“西安市児童医院”に救急搬送されたが、4年が経過した現在では四肢が麻痺し、意識を失い、咀嚼能力を喪失している。嚥下が困難なため、少量の流動食で生命を維持しているが、目も見えない状態にある。母親の“雷霄(らいしょう)”は、陝西省や宝鶏市の衛生局、“鳳県”の疾病コントロールセンターなどに陳情を続けているが、どこも相手にしてくれていない。3年間で治療費に50万元(約825万円)以上費やしたが、もう借金する場所もない。

 雷霄とその夫の“雷玉良”は2016年に祖母と共に娘を連れて北京市へ行き、娘に治療を受させたが、その間に彼ら夫婦は中国政府「国家衛生・計画生育委員会(現:国家衛生健康委員会)」に陳情を行った。ところが、突然に鳳県政府と公安職員が夫婦を無理やり車に乗せて鳳県へ連れ戻し、雷霄は1カ月以上拘置所に入れられ、その後は住居監視に処せられた。夫の雷玉良と祖母は“尋釁滋事罪(騒動挑発罪)”で拘留された後、保釈となった。

 保釈されて出て来た時には娘は息絶え絶えの状態であった。今では彼らが北京市で娘の治療を受けようとすると阻止されるのである。